生成AI情報交流会(2025.07.17)開催報告
インターネット調査品質委員会
二瓶 哲也
2025年7月17日、第8回の「生成AI活用・情報交流会」が開催されました。この情報交流会は、インターネット調査品質委員会が主催し、業界の発展のために生成AIに関する情報をオープンに交換し合うことを目的に2024年6月より実施しています。今回の情報交流会では、AIを活用した最新のサービス・機能紹介とレイ・ポインター氏のAI講座の参加報告が行われました。
1. クアルトリクスのAI活用事例紹介
クアルトリクスの中嶋氏より、AIを活用した最新機能の紹介と事例共有を行っていただきました。
1)会話型フィードバック
アンケートの自由回答に対し、AIがリアルタイムで記述内容を解釈し、自動で深掘りの質問を行う機能です。日本語にも対応し、顧客の意見をより深く聴取できるようになり、具体的なアクションに繋げやすくなります。AIが生成した質問や追加回答はデータとして保持され、それぞれの内容についてトピック分析も可能です
2)シンセティックパネル (合成データ)
アンケートの回答データを自動生成する技術です。他の回答者のデータに基づいてデータの一部を補う形でデータを生成する機能と、完全に全てのデータをAIで生成する機能があります。特に全てのデータをAIで生成する機能は、コスト削減やスピード向上につながることが期待されます。Booking.comとの実証実験では、設問形式によって人間とAIの回答の一致度に差が出ることや、AIが人間の回答のように「解釈の揺れ」まで再現する興味深い結果が示されました。過去の具体的な行動や経験を聞く質問では精度に課題があるものの、態度や好みに関する質問には有効である可能性が紹介されました。
3)エージェントAI
将来的なビジョンとして、アンケートの中で「AIエージェント」が顧客対応を行う構想が紹介されました。顧客の問題をアンケートの途中で即時解決する「顧客支援エージェント」や、リサーチャーに代わってデータの異常を検知・分析し、課題を知らせてくれる「リサーチャー支援エージェント」などが挙げられました。
2. AIインタビューツール「Light Depth」の紹介
クロス・マーケティングの尾崎氏より、AIチャットインタビューソリューション「Light Depth」について、機能と分析事例が共有されました。「Light Depth」は、アンケート内でAIがチャット形式の対話を行い、回答を深掘りするツールです。従来の自由回答に比べ、より「深い回答」を引き出すことができます。北米での英語テストでも、日本語と同様に質の高いデータが取得できることを確認されており、翻訳機能も備え、多言語調査の分析も効率化できることが紹介されました。取得した長文データを分析する際、単語単位で分析すると文脈が失われる課題がありました。対策として、AIに分析の意図を伝えながら対話を重ねてチューニングを行うことや、AIの「ハルシネーション (幻覚)」を防ぐために、AIの回答の根拠となった生データを確認するといった泥臭い作業が重要であることを共有していただきました。
3. Ray Poynter氏セミナーの参加報告
JMRAインターネット調査品質委員会の黒田氏、塚本氏より、2025年6月4日に開催されたレイ・ポインター氏のAI講座で得られた知見が共有されました。
黒田氏からは、AIの活用範囲と心構えとして
- AIは企画、調査票作成、実査、データ処理まで、リサーチのあらゆる工程で活用可能であること
- 仕事で使うなら、セキュリティや精度の観点から無料版ではなく有料版のAIを使うべき
- AIを「壁打ち」相手として、対話しながら調査設計をブラッシュアップしていく使い方が有効
といった知見を紹介していただきました。
塚本氏からは、
- 「デジタルツイン」と呼ばれる技術としてインタビュー対象者を模したAIを生成し、追加質問ができるというコンセプトの紹介
- AIはあくまでツールであり、最終的なアウトプットの責任は使用者が負うべき
- AIには作業指示だけでなく「何のためにやるのか」という目的を伝えることで、良い結果が得られる
といった知見を紹介していただきました。最後に、「今日のAIは、あなたが今後使う中で最も性能の低いAIである」というフレーズが印象に残ったことが紹介され、今後のAIの急速な進化への期待が示されました。
今回の情報交流会は、AIがリサーチデータの収集方法を大きく変革しつつある現状と、それに伴いリサーチャーに求められる新たなスキルや視点が紹介された会でした。今後もリサーチャー同士の有用な情報交流の場として、定期的に開催をしていく計画ですので、次回以降もご期待ください。
2025.8.19掲載