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ほんぶん

第2部 組織の変革を推進する
第18章 インサイトストーリーを開発する

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


1987年、マッキンゼーのバーバラ・ミントは、『ピラミッド・プリンシプル』という本で、すべての経営コンサルタントはSCQAというフレームワークを使って仕事を構成すべきだと提唱した。SCQAとは、状況(Situation)、複雑さ(Complication)、課題(Question)、回答(Answer)の頭文字をとったものだ。ミントはその後、北米やヨーロッパの多くの大手コンサルタント会社にこのフレームワークを指導し、コンサルタントが調査の課題を設定するプロジェクト開始段階と、結論やアイデアをクライアント企業に売り込むレコメンデーション段階の2つの重要な局面でのメリットを提唱した。

IMAは2005年初頭、ロンドンで最初のインサイトフォーラムを立ち上げ、その最初のベストプラクティスの1つとして、インサイト・コミュニケーションの構造に注目した。それまでは一般的に、調査プロジェクトは科学的な実験のように実施され、記述されるべきだと考えられていた。特に市場調査の報告書は、調査依頼者から受け取った調査概要についてまず述べ、選択した調査方法、実施した調査内容、収集したデータ、調査結果の表について詳細に述べてゆく。そして最後に運が良ければ、考察と結論が書かれていることもある。

これは、タスクへのアプローチとしては論理的だが、コミュニケーションとしては非常に受動的だ。インサイトフォーラムのメンバーは、このアプローチが企業のインサイトプロフェッショナルにとって非常に有害だと考えた。なぜならリサーチブリーフを繰り返して、調査方法に焦点を当てるそのすべてに、技術的な専門知識のために採用された受け身のサービスプロバイダーの臭いがするからだ。それは、ビジネスの価値を見極め、変化を促進しようとする前向きなインサイトチームには合わない。先進的なインサイトチームは、調査概要ではなく、根本的なビジネス課題に焦点を当てたいと考えている。また意思決定者に伝える際に、調査方法論を優先させることもない。手法はインサイトチームの内部で解決すべき問題であり、意思決定者に伝える際には、付帯資料で言及する価値しかない。

IMAの共同設立者であるサリー・ウェッブは、バーバラ・ミントが提唱するモデルが企業のインサイトチームにメリットがあることをすぐに理解した。第5章で見たように、このモデルはプロジェクト開始時に本領を発揮し、インサイトプロフェッショナルが調査すべき真のビジネス課題を診断するのに役立つと私たちは考えている。しかし、プロジェクトの最後にインサイトのコミュニケーションを構築する方法としても役立っている。より正確に言うと、このフレームワークを使ってプロジェクト全体を通してストーリーを展開すれば、コミュニケーションの構造はすでに出来上がっているのだ。

過去15年間に、私たちは当初のSCQAモデルに2つの変更を加えた。1つ目は、提言(レコメンデーション)を採用した場合のベネフィットを強調するために、末尾に「B:(Benefits)ベネフィット」を追加したことだ。もうひとつは、インサイトワークで扱うべき課題は、アナリストの場合は特に、複数の課題を特定することが実務上有用であることを認識することだ。ただし、基本的なビジネス上の課題は、絶対に明確でなければならない。このモデルの仕組みは以下のようなものだ。


状況(Situation):課題の背景、市場の現状に関する大局的な統計、または価値を創造するために顧客が自社とどのように影響し合うか。

複雑さ(Complication:):組織が立ち止まって考えるきっかけとなった課題。これは財務上の不利な数字、競合他社の状況の変化、消費者行動の変化などが考えられる。

課題(Question):このインサイトプロジェクトが取り組む重要なビジネス上の根本的課題であり、企業にとって可能なアクションと将来的な財務的影響に関連づけて表現される。それは方法論などの問題を付帯資料に追いやり、その後に続くすべてを形作るものだ。

回答(Answer):要約されたビジネス課題に対するメッセージ性のある回答。これは、パンチの効いた見出しにまとめたり、異なる読者に応じてより詳細な情報を含むように延ばしたりできるよう記述する必要がある。

ベネフィット(Benefit):回答で示された推奨事項を採用することによるメリットで、財務的に数値化することが理想だ。


現在、IMAの法人会員の多くがSCQABを採用し、10年以上にわたってIMAの研修のリクエストの上位5位に入っている。私の前職のバークレイズのように、SCQABをインサイト業務の中核であると考え、その構造をインサイト・コミュニケーションのテンプレートに組み込んだ組織もある。これは、調査結果をより効果的に伝えるのに役立つだけでなく、レコメンデーションにつながるすべての段階で思考を形作った。

SCQABは、インサイトのコミュニケーションに関するもう一つの真理を捉えている。この考え方を採用すると、ストーリーを発展させる際に、ストーリーのコミュニケーションについて考えるようになる。これは、第6章でインサイトの仕事は反復的であると私が指摘したことを強調している:

  • 私たちは常にビジネス上の問題を考えている
  • 私たちは、すでに知っていることを振り返る。
  • なぜ新しいことが起こっているのか、また状況がどのように進展するのかについての仮説を立てる。
  • 仮説を実証または反証するために、調査を実施し、新しいデータを探索する。
  • 発見したエビデンスを解釈し、仮説を修正する。

インサイトチームがこのように活動すると、調査の完了とともにストーリーの構成が進化する。それは、プロジェクトの最後に「書き上げる」ものではなく、プロジェクトそのものに不可欠な部分だ。ストーリーを共有するためにさまざまな方法を検討する必要があるが、その中には統合的で簡潔なメッセージが必要なものもあれば、より詳細な情報が必要なものもある。したがって、多くの人に聞いてもらいたいメッセージであれば、調査終了後、何カ月も続くコミュニケーションフェーズがまだあることは間違いない。しかし、基本的なストーリーの構成は調査中に開発されるべきであり、重要な統計、論理、キーフレーズは、繰り返すたびに磨かれるべきだ。

成功するインサイトチームの18番目の秘密は、インサイト・コミュニケーションの構造を最適化することに時間を使うことだ。
重要ポイント:
  1. 従来の調査プロジェクトの書き方は、インサイトチームが時代遅れのサービスプロバイダーという役割を反映している。
  2. バーバラ・ミントのSCQは、IMAによってSCQABに適応し、よりパンチの効いたメッセージ主導の課題にフォーカスした構造を提供している。
  3. SCQABは、インサイトチームがビジネス課題をしっかりと捉え、解決すべき問題を特定するプロジェクトの開始時に非常に大きな力を発揮する。
  4. SCQABは、調査の進行に伴ってストーリーが進化するように、私たちの思考を形作るために使用できる。
  5. SCQABは、社内のビジネスコンサルタントの役割を反映した、仮説主導で反復する思考法に合致している。

 

次章紹介

この章では、SCQABとそのインサイトストーリーを形成する役割について説明してきたが、ストーリーテリングは構成だけではない。次の章では、インサイトの作家、インサイトのジャーナリスト、インサイトの編集者というコミュニケーションのプロの3つのキャラクターを紹介する。

2023.5.16掲載