第4部 インサイトのインパクトを最適化する
第34章 評判を上げる
JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子
インサイトそしてインサイト・チームがどのような存在であってほしいかという自分たちのブランドについて考えること、またチームとその能力についての認知を高めることは重要である。しかし、インサイト・チームと仕事をした人にとってその経験がつまらないものだったり、作りたい印象が損なわれたりしては意味がない。
マーケティングの言葉で言うとそれは、企業が何百万ドルもかけて自社ブランドを宣伝しサービスの認知度を高めたにもかかわらず、ユーザー・エクスペリエンスで失望させられるようなものだ。ある企業で嫌な思いをすれば、その企業の広告がどうあろうと関係ない。またマーケティングでは、人々がそのひどい体験について話したり、実際に否定的な報道がなされたりすることによっても損なわれると断言する。私は、2000年代初頭にパリとブリュッセルで開催されたマーケティングとリサーチのカンファレンスで講演したときのことを鮮明に覚えている。そのときバークレイズ銀行は数百万ドルを投じた広告キャンペーン「大きな世界のための大きな銀行(a big bank for a big world)」を展開したが、イギリス国内で150の支店を閉鎖するという報道発表によって致命的なダメージを受けた。企業は言葉だけでなく行動でも認識されるものであり、その2つを一致させなければならない。
インサイト・チームについても同じ考え方が当てはまる。たしかに私たちは自分たちのブランドを定義し、チームを宣伝すべきだが、同時に私たちが宣伝したいイメージと一致するような評判を社内マーケットで得るよう注意しなければならない。そこには考えるべき2つの側面がある。ものごとを正しく(正確に)行うこと、そして正しい(適切に)ことをすることだ。
正しく(正確に)行う
インサイトの専門家は非常に良心的な傾向があり、ほとんどのアナリストやマーケティングリサーチャーは、良い仕事をすること、そしてそのように見られることを誇りに思っている。だからといって仕事を正しくしているという評判を確立するのは容易ではない。というのも私の知るどの企業もインサイト・チームに対して、現実的に高い水準で提供可能な仕事以上のことを期待するからだ。第27章の「インサイト・リーダーシップ・マトリックス」を思い出してほしい。ほとんどの組織の上級インサイト・プロフェッショナルは、ステークホルダーとのミーティング、リソースの優先順位付け、仕事の完了時期に関する期待値の管理など、インサイトチーム以外の外部の管理業務に多くの時間を費やさなければならない。
したがって、他部門のインサイト機能に対する認識を、機敏で知識が豊富な技術的に有能で、期限と予算内ですると言ったことを実行するスペシャリスト集団として改善する余地は常にある。また、サービスが提供される消費者の世界と同様に、合理的なことと同じく重要なのは、感情的なことだ。ステークホルダーは、あなたのチームと働くことを楽しんでいるだろうか、それとも必要にせまられてサポートを求めているのだろうか。
彼らがあなたと一緒に働くことに惹かれるのは、あなたの顧客知識を尊重しているからだろうか。それともあなたと一緒に会議に参加するのが好きだからだろうか。彼らは、あなたの部署が問題を解決してくれると信頼しているのだろうか。第2部「変革を推進する」で見たように、上級の意思決定者は、信頼感があって信用に足ると思う相手はもちろんだが、適切なレベルで仲の良いの親密さを持つ相手と必然的に最も深く関わっている。
正しい(適切に)ことをする
しかし、インサイト・サービスの罠というもっと大きな課題がある。喜ばせたいという自然な欲求に駆られ、データ、事実、数字についての要求に対応するために、逆なことになってしまうインサイト・チームが多すぎる。友人を獲得したり、人に影響を与えたりするために必要なこともあるが、問題は、優れたサービスを提供しようとするあまり、インサイトがサービス部門であるという他の部門の歴史的な認識が定着してしまうことだ。私たちのチームを、顧客と市場に関する知識を使って企業価値を特定し、企業内の変化を推進するグループだと定義しても、私たちとの実際の仕事経験が、情報を求められたら ただ「はい」 と答えるだけであるならば意味がない。
多くのインサイト・チームがデータや事実、数値の要求に応えようと全力を尽くす。友人を獲得し、人々に影響を与えるために必要なこともあるが、問題は、優れたサービスを提供しようとするあまり、インサイトはサービス部門であるという他部門の歴史的な認識が定着してしまうことである。私たちのチームを、顧客や市場の知識を活用して企業の価値を特定し、企業内の変革を推進するグループだと定義しても、私たちと仕事をした実際の経験が、情報を求められたら「はい」と答えるだけだとしたら、意味がない。
これは小規模で若いチームにとっても、大規模で成熟したチームにとっても、現実的な問題である。新しい部署では、技術的なスキルはあってもビジネス経験があまりない比較的若いリサーチャーやアナリストがいるのが普通である。成熟したチームでは、サービス部門として働く習慣を変えるのは難しく、ストレスや過重労働があるとき(つまり、会社によってはほとんどの場合)、私たちは皆、型(いつものパターン)に戻ってしまう傾向がある。そのため進歩的なインサイトのリーダーとして、私たちはものごとを正しく(正確に)行うだけでなく、正しい(適切な)ことをするという部門の評判を確立するために、多くの時間と労力を費やさなければならない。もし経験の少ないアナリストやリサーチャーと仕事をしたときの実際の経験が、チームの目的に合致していなければ、組織におけるインサイトの地位を向上させ、影響力を最適化することはできないだろう。
ベストプラクティスの例
最も効果的なインサイト・チームには、チームのプロセス、基準、構造を組み合わせて、この難題に立ち向かってきたものがある:
- 英国の宝くじ業者キャメロットは、インサイト・チームのワークフローに焦点をあてた多くの企業の一つで、若手や中間管理職がインサイトのイントラネットを通じてファクトや数字を自分で確認するようにし、インサイト・マネジャーが真のビジネス課題に専念できるようにしている。
- 有名なベーカリーのワーバートンズ(Warburtons)は、新しいリクエストに一貫した方法で対応できるように、チームのEメールアカウントを設定したインサイト・チームの一つだ。VISAのような大規模なグローバル組織でも、新しいリクエストを記録するゲートウェイとしてインサイトポータルを使用し、複数のチームメンバーに届くリクエストによくある食い違いをなくすことで、同様の目的を達成している。
- 国際的なエネルギー企業であるSSEでは、個人が特定の事業分野に集中することで、営業上の大きな課題に集中できるよう一次調査や二次調査から離れたチームを再編成した。
- 巨大スーパーマーケット・グループのテスコは、成功をたたえ、正しい行動に注目を集めるための革新的な方法を模索してきた。これには、創造的な方法でビジネス課題を解決した人に対して賞が贈られる。
成功するインサイト・チームの34番目の秘訣は、ものごとを正しく(正確に)行い、正しい(適切な)ことをすることにより、評判を管理することである。
重要ポイント:
- インサイトブランドの構築とインサイトの認知度の向上は、チームとの協働経験によって損なわれる可能性がある。
- インサイトの専門家はだれもが、よい仕事をしたいし、よい仕事をしていると思われたい。しかし、ものごとをもっとよくするための視点は常にある。
- 上級の意思決定者は、仕事ができる部署と同様に、仲の良い部署と仕事をすることを選ぶ。
- サービスの罠に注意せよ:チームの評判が、ものごとを正しく(正確に)行うことだけでなく、正しい(適切な)ことをするよう管理する必要がある。
- チームにとっての適切な基準を検討し、ワークフローを最適化し、正しい行動に報酬を与え、ビジネス課題を中心に据える。