第4部 インサイトのインパクトを最適化する
第39章 営利的思考の応用
JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子
インサイト・チームは、市場の消費者がどのように、そしてなぜその組織の顧客になるのか、その財務的な意味合いについて数値化した理解を提供することで、組織がより営利的であるよう支援をすることを目指すべきだ。最初のステップは、すべての業務において営利的な基盤を構築し、簡単な評価換算テクニックに習熟することである。これらは財務的な視点から顧客の問題を捉え、財務の言葉でビジネス上の提案をするのに役立つ。
このような施策は、組織に大きな変化をもたらすと同時に、営利的思考に対するインサイト・チームの評判を高め、その影響力を最適化する。しかし、本当に継続的変化をもたらすためには、インサイト・チームは日々の活動においても営利的思考を発揮し、培った理解を日々の活動に生かす必要がある。
インサイト・チームは営利的思考をどのように活用できるのか?
インサイト・チームが営利的思考を活用するには、次の3つの重要な方法がある:
- 何をするべきか :活動の優先順位付けのために評価換算を用いる
- どのように行うか:各業務を利用して、評価換算の機会を特定する
- 実施したこと :特定した評価換算の機会とその実行に移したものを記録する。
私たちの仕事
現在、英国、北米、欧州のほとんどのインサイト・チームは、以下のいずれかの方法で活動の優先順位を決めている:
- 通常通り行う
- 大声で叫ぶ人からのリクエストに応える
- 依頼した人の序列に従ってプロジェクトをランク付けする。
- 先着順で行う
これらはいずれも進歩的なインサイト・チームにとって最適とは言えない。私たちの根底にある目的が、価値を特定し変化を促進することなら、最も価値を付加できる可能性のあるビジネス課題に集中する必要がある。したがって、私たちの影響力を最適化する最も具体的な方法の一つは、チームが行う仕事の優先順位を決めるプロセスを再構築することだ。
評価換算のテクニックは優先順位付けの過程で重要な役割を果たすべきであり、営利的な上積みが最も大きいと推定されるプロジェクトに重点的に焦点があてられるべきだ。良い点としては、チームがプロジェクトの評価換算に慣れるとプロセスをより簡単にする経験則を開発できることだ。国際的なビールメーカーであるモルソン・クアーズは、インサイト・チームが、対象となるブランドの価値とビジネス上の意思決定の質に基づき、「フル・リサーチ、ライト・リサーチ、ノー・リサーチ」のどのアプローチを採用するかの方法を説明するマトリクスを開発した最初のインサイト・チームのひとつだ。経験的データに基づくこのマトリクスは、例えば、英国市場の最大手ビールブランドのカーリングの大規模テレビ広告キャンペーンに関するような決定は、フル・リサーチのプロジェクトが正当化される一方で、最も小規模なブランドの1つに対する急ぎのパッケージ修正には、新規の調査の必要を認められないかもしれないということを全員が理解するのに役立った。
私たちの方法
第5章と第6章では、私はビジネス上の課題を把握し、調査するための7つのステップについて概説した。企業のインサイト担当者は、各ステップにおいて、営利的な基盤を築き、営利的な考え方を示すことで、次のような能力を発揮することができる。
リフレクト(Reflect):新しいプロジェクトを始める前に、私たちは常に自分たちが知っていることを振り返り、その中に中核となる統計と事業計画(ビジネス・ブループリント)を含めるべきである。
エンゲージ(Engage):リクエストに応える前に、リクエストの背景にある営利的な背景を理解するために意思決定者に深く話をきく必要がある。
診断(Diagnose):SCQABモデルを使って課題を特定し、思考を構造化する。「S:状況」と「C:複雑さ」のセクションに中核的な統計資料を含め、主要な質問と価値の根源を結びつける。
訳注*)SCQABとは、ビジネス上の問題を診断するためのモデルで、状況(Situation)、複雑な要因(Complication)、課題(Question)、解決策(Answer)、利益(Benefit)のこと(第5章を参照)
仮説(Hypothesis):潜在的な解決策を網羅するために最初にすることとしては、営利的現状と実施上の制約を考慮すべきである。
エクスプローラー(Explore):私たちの焦点はおそらく、最初は関連する顧客やデータや市場データを発見することに主眼が置かれるだろう。
解釈(Interpret):次に、中核的な統計と事業計画の文脈に基づいて、顧客と市場のエビデンスを解釈し、発見したことが営利的に重要かどうかを確認する必要がある。
意見(Opinions):組織が今何をすべきかについての我々の提案は、SCQABの利益を財務的な言葉で表現した、営利的な理解に基づくものでなければならない。
私たちが達成したこと
私たちの関心は、すぐ次のプロジェクトに移ってしまい、他部署の同僚が自分たちのインサイトをどのように活用したかを見失ってしまう傾向がある。これは、インサイト・チームがその影響力を最適化する上で非常に不利になる。最良の解決策は、実施したプロジェクトと特定した潜在的な機会を記録するバリュー・ログを作成し、意思決定者とのフォローアップ・ミーティングを準備し、その結果どのようなビジネス活動が起こり、収益やコストにどのような影響があったかを確認することである。このデータは、将来の要請を評価換算する上で非常に貴重なものとなる。また、バリュー・ログは、次章で検討するインサイトの有効性の別の側面にとっても重要なものとなる。
営利的ロールモデル
経験から、日々のインサイト活動に営利的な考え方を取り入れるには、継続的な取り組みが必要であり、次の条件が揃わなければ成功しないことがわかっている。
- インサイトリーダーが営利的な行動を率先して実行すること
- その行動を強化する旗振り役が特定されること
インサイトマネージャー、リサーチャー、アナリストの中には、営利性に関わることすべてが、最初は少し奇妙に感じられる人もいるだろう。そして、最初は熱中した後、古い習慣に逆戻りするのが一般的だ。バリュー・ログはおろそかになり、仕事の優先順位は以前のように戻り、インサイト・チームはその影響を最適化する絶好の機会を逃してしまう。しかし、熱意あるチームの旗振り役(推進役)に支えられた断固とした、目に見えるリーダーがいれば、すべてを変えることができる。
成功するインサイト・チームの39番目の秘訣は、仕事の優先順位をつけ、実行し、記録する際に営利性を示すことである。
重要ポイント:
- 営利的な基盤を築いたインサイト・チームは、日々の活動において営利的な考え方を示さなければならない。
- いつでも着手可能なさまざまなプロジェクトを、相対的価値に基づいて仕事の優先順位をつけるべきである。
- 各プロジェクトを実施する際に、営利性を実証し、可能な限り価値のある機会を見つけるべきである。
- 特定した価値のある機会を記録し、その提言に対して組織が何を行ったかを追跡するべきである。
- インサイト・チームが継続的に進歩するためには、リーダーや旗振り役が営利的行動のロールモデルとなる必要がある。