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ほんぶん

リサーチ・イノベーション委員会データサイエンス研究会
グラフィカルモデリング(GM)入門 開催報告
 (7/10実施)

リサーチイノベーション委員会 梅山貴彦


7月10日に開催いたしました、早稲田大学 人間科学学術院 教授の小島隆矢氏によるセミナー「グラフィカルモデリング入門 〜探索的因果モデリング〜」は、満員盛況のうちに終了いたしました。ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
今回のセミナーでは、「なぜ、その関係が生まれるのか?」という因果のメカニズムを実際のデータを活用して、視覚的に探索する強力なアプローチが紹介されました。よく使われる重回帰分析の落とし穴から始まり、パス解析による関係性の「見える化」、そして本題である「グラフィカルモデリング(GM)」と構造方程式モデリング(SEM)を連携させる実践的な分析手法まで、具体的な事例を交えて分かりやすく解説いただきました。

因果関係を探索的に視覚化して、分析精度を上げる
■ 重回帰分析の落とし穴を考える

データ分析で多用される重回帰分析ですが、変数の選び方によって結果が大きく変わってしまうことがあります。セミナーではコンパクトカメラの満足度調査を例に、「小型軽量」であることが、分析の仕方によっては満足度に対して「正の効果」にも「負の効果」にもなり得るという現象が示されました 。
これは説明変数間の相関が原因で起こる「マルチコモドキ」と呼ばれる現象で、単なる統計的な不安定さではなく、変数間の因果構造を見落としていることに起因すると解説されました。

■ パス解析で因果のメカニズムを「見える化」する

この「マルチコモドキ」の問題は、変数間の因果関係を矢印でつないだ「パス図」で考える「パス解析」によって解決の糸口が見えてきます。パス解析では、変数間の相関を以下の3つに分解して解釈します。

  • 直接効果:ある変数が別の変数に直接与える影響
  • 間接効果:ある変数が、他の変数を経由して間接的に与える影響
  • 疑似相関:共通の原因(共変量)によって生まれる、見せかけの相関

これにより、例えば「小型軽量」であることは、直接的には操作性の低下などを招き満足度を下げる(負の直接効果)ものの、「持ち運びやすさ」を向上させることで満足度を上げる(正の間接効果)という、より深く納得感のある解釈が可能になります。

■ 本日の主役「グラフィカルモデリング(GM)」

しかし、分析対象の変数が多くなると、どの変数間にパスを引くべきか(=直接的な因果関係があるか)を見つけ出すのは非常に困難です。
そこで役立つのがグラフィカルモデリング(GM)です。GMは、「他のすべての変数の影響を統計的に取り除いた後でも、なお2つの変数間に相関が残るか」を調べることで、「直接的な因果関係の候補」となる変数のペアを効率的に見つけ出してくれます。
その結果は「独立グラフ」と呼ばれる図で視覚的に表現され、これをたたき台にすることで、精度の高いパス図(因果モデル)を効率的に作成することができます。

■ より高度でシステマティックな分析戦略へ

一方で、GMを実践するには注意点もあります。例えば、原因と結果が混在した変数群で一度に分析を行うと、「因果合流点」という構造によって本来関係のない原因変数間に見せかけの相関(無用な線)が生じてしまうことがあります。これは「セレクションバイアス」と同様の現象です。
この問題を避けるため、あらかじめ変数群に「原因→結果」の因果順序を想定し、段階的に分析を進める「連鎖独立グラフ」という、よりシステマティックなアプローチが紹介されました 。これにより、「結果が原因を乱す」ことなく、より妥当な因果モデルを探索することが可能になります。
今回のセミナーは、データから因果のストーリーを読み解くための強力な考え方と実践的な手法を学ぶ、大変よい機会となりました。ご参加いただいた皆様の今後の分析業務の一助となれば幸いです。

以上

2025.07.23掲載