2024年9月26日、消費者庁から「No.1表示に関する実態調査報告書」が公表されました。
JMRAではこの調査の企画段階から全面的に協力し、ヒアリング対象企業の紹介や、消費者向けアンケート調査の設計等について助言してきました。今後の同庁の取り組み方針を受け、引き続き普及・啓発活動を支援するとともに、私たち自身の活動も強化して行きたいと考えています。
=> 消費者庁の報告書 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/survey
1.「No.1表示に関する実態調査報告書」のポイント
今回の消費者庁による実態調査は、「顧客満足度」や「コストパフォーマンスが良いと思う」などといった第三者の主観的評価を基にしたNo.1表示の増加に対し、それらが合理的な根拠に見合わない場合、景品表示法に違反または問題となるおそれがあることを改めて明確に示しました。令和5年度までに、対象商品やサービスを買ったことも使ったこともない人を含めて聞いた、(いわゆる)「イメージ調査」を根拠とした「満足度No.1」等に多数の措置命令が出されたことから、すでにそのようなNo.1調査結果は不当表示であり、違法と認定されています。なお、公正取引委員会や消費者庁が用いる行政用語としての「問題となるおそれがある」は、「限りなくクロに近い」ものとご理解いただいてよいと思います。
また、今回の調査ではそれらに加えて、「医師の90%が推奨する」、「○○に悩む方の90%が支持する」などの、やはり根拠に乏しい「高評価%表示」も断罪されることになりました。
この調査は、主に3つの手法(+JMRAや調査会社へのヒアリング)で実施されました。
まず、(1) 実際の広告表示のサンプル収集を通じて、「No.1」表示の根拠となる調査が消費者の主観的評価に基づく、恣意的で安易なものが多い(=不十分な場合が少なくない)ことが示され、(2) 消費者へのアンケート調査の結果、約5割の人が新商品等を購入する際にNo.1表示が「かなり」または「やや」影響すると答え、購買意思決定に大きな影響を与えることが明らかになりました。
また、(3) 広告主に対するヒアリング調査では、「他社もやっているから」、「調査会社の説明を鵜呑みにしていた」など、調査内容に対する広告主側の認識不足が指摘されています。
そして、「No.1」や「高評価%」表示が行われる場合、以下の4点が重要であることが明示されました。
- 比較対象となる商品、サービスが適切に選定されていること
- 調査対象者が適切に選定されていること
- 調査が公平な方法で実施されていること
- 表示内容と調査結果が適切に対応していること
2.消費者にとっての「不当な№1表示」の問題点
1) やはり日本の消費者は「No.1」に弱い?
何と言っても、根拠に乏しい不当表示を行うことにより、消費者に不利益をもたらす(もたらしている)ことが最大の問題です。図表1は、「No.1表示」に対する消費者への影響度のアンケート結果です。

No.1表示が購入の際の意思決定に「かなり」または「やや」影響すると回答した人が、約5割にのぼることがわかりました。


図表2・3からは、4割を超える消費者が「同種の他社商品と比べて優れていると思う」、「実際の利用者に調査をしていると思う」と回答していることがわかります。
また図表4からは、「医師の90%が推奨する」などの「高評価%表示」に影響される人が同様に多いことがうかがえます。医師などの専門家が、客観的なデータや専門的な知見に基づいて推奨している商品だと認識されているものと分析されています。
すなおな、日本人の国民性がよく表れている結果と言えないでしょうか?

なお、JMRA会員社による過去の自主調査結果*1,2 からも、類似の結果が得られています。
*1 2024年6月19日 ネオマーケティング 「景表法と薬機法表現に関する調査」
https://corp.neo-m.jp/report/investigation/other_004/
*2 2024年6月19日 GMOリサーチ&AI 「【消費者4,914人に調査】広告の「No.1」表記の実態」
https://gmo-research.ai/pressroom/survey/voluntary-survey-20240619
海外でも、昔から同様の問題があるとは聞いていまして、イギリスでは広告基準機構(ASA)傘下の広告慣行委員会(CAP)が自主規制ルールを定めているそうです。しかし、残念ながらNo.1表示の影響度に関して国際比較に足るデータは見つけられませんでした。それでも、日本は誇大広告等に対する法規制や業界ごとの自主規制が厳しく、市場に発せられた広告表現への信頼度が比較的高いであろうことは容易に推察されます。そうした信頼を悪用し、消費者の期待を裏切ることは許せません。こうした問題については、しばしば「だまされる側も悪い」、「消費者も賢くなる必要がある」という議論がありますが、そこは一理あるとしても、やはり第一に「だまそうとする側が悪い」ことは明確にしておきたいと思います。
2)市場調査への信頼をおとしめることは許されない
もう1つ、私たちからすれば「真っ当な調査の価値をおとしめる」結果になっていることも重大な問題です。本来の市場調査は、消費者の声を新商品の開発や既存商品の改良に活かし、消費生活をよりよくするために貢献するものです。不当なNo.1表示等により、消費者の皆さんに「調査なんて、いいかげんなものなんだ」、「調査結果なんて信用できないよね」といった不信感を与えてしまうことになっては、健全な企業活動が成り立たなくなってしまいます(世論調査にも同様のことが言えますが)。
現行法では、不当なNo.1表示を行った広告主に対しては、景品表示法に基づいて行政処分や刑事罰が科されます。まず、(1) 措置命令では、違反行為を止めるよう命じる(=強制力あり)とともに、消費者に対して誤った情報を正すための訂正広告を行うことが求められます。また、(2)不当表示によって広告主が得た不当な利益に対して課徴金の支払いが命じられることもあります(違反期間中の売上高の最大3%。過去10年以内に同種の課徴金納付命令を受けている場合には最大4.5%)。さらに悪質な違反で刑事処分が相当な場合には、(3)刑事罰が科されることもあります(法人の場合、3億円以下の罰金)。刑事裁判手続が公開されるのはもちろんのこと、行政処分に関する違反情報も公表されますので、企業の信用失墜、ブランド価値の毀損につながります。
しかし、このようなペナルティの対象は広告主に限定され、不公正な調査を実施した調査会社や誇大な広告表現を立案した広告代理店などが罰せられることはありません(広告主には、そうした業務委託先に対する管理監督責任があると定められています)。
法律ではありませんが、JMRAを含む国際的な市場調査業界は自主規制として、倫理綱領やJIS Y (ISO) 20252で調査結果を公表するクライアントに対する注意義務を負っています。長年にわたって確立されたそのような信頼にタダ乗りし、むしろ悪用する「調査会社」に広告主がだまされないように、今後も繰り返し注意喚起を行っていく必要があるのです。
3.広告主(クライアント)へのPR活動強化を
1) まだまだ景品表示法の理解が進んでいない
それにしても、根拠に乏しいNo.1表示に対する行政処分が相次いでいるにもかかわらず、どうしてなかなかなくならないのでしょうか? 景品表示法の規制や精神が十分に周知されていないこともあるでしょうが、「No.1」に一定の広告効果が見込まれるため、あるいは単なる無知のため、そこにつけ込む輩がいるためなど、複数の要因が考えられます。
今回の実態調査を通じて、不当なNo.1表示等がなされる背景に、「競合他社もやっている」ので「見劣りしないようにしたい」等の動機があることがわかりました。そもそも、表示の根拠となる調査の内容について広告主が無関心であることが指摘されています。また、悪質な調査会社やコンサルティング会社等から安価な勧誘や提案を受けたケースが多くなっており、彼らの説明をうのみにしていることが報告されています。
一般に、きちんとした「ランキング調査」を実施して確実な根拠のあるNo.1の結果を出すためには、例えば数万人単位のスクリーニング調査をかけたり、数百人単位の商品・サービス利用者に本調査をかけたりした上で、統計的に有意な(=意味のある)値であるかの検証を行う必要があります。少なくとも100万円単位の費用がかかることになります。しかし、私たちのPR不足もあってか、そうした実情は知られていません。
東京に本社を構える大手の広告代理店や媒体社では、必ず広告表現を最終チェックする部署があり、消費者庁の措置命令や公益社団法人日本広告審査機構(JARO)が発信している警告情報等にも常に注意を払っていますので、怪しい広告表現が紛れ込む余地はごく少ないと考えられます。近年特にねらわれているのは、地方の中堅・中小企業とみられています。
まず、信用のおける調査会社や広告会社を知ること、選定することが容易ではないと考えられます。また、「30~40万円」程度の費用提示を受けた時に、その内容を精査することも難しいかと思われます。さらに、「法律にのっとってやっています」と言われて、裏を取ることも実際には難しいでしょう。金額的にも、(企業規模によるとは思いますが)現場の担当者レベルで決済できてしまう可能性が高いと思われます。
現状は、「No.1調査やりませんか?」、「No.1が取れなかったら費用はいただきません」といった、いかにも怪しい営業フレーズや勧誘に安易に乗らない「常識」に期待しているのが実態なのです。
2) 広告主の経営層にどう働きかけるか?
景品表示法では、違反に対する責任はすべて広告主が負うことになっています。不当表示をしてしまい、社会的制裁を受けた後になって「だまされた」と嘆いても、誰も助けてはくれません。信用のおける取引先(調査会社や広告会社)を選定するとともに、管理・監督の仕組みを社内に作っておくことが大切です。また、中小企業等でそれだけのコンプライアンス体制を整備できない場合には、経営層の方々が必ず最終確認をなされるように働きかけていくことが必要と考えます。
消費者庁の今後の取り組みとしても、「景品表示法の考え方の周知・啓発」の中で、表示の根拠となる情報の確認を求めており、
No.1 表示等の根拠を確認する際は、単に、第三者機関による調査が実施されていることのみを確認するだけでは不十分であり、調査内容が表示内容と適切に対応しているかどうかなど、自らの責任において当該 No.1 表示等が合理的な根拠を有しているといえるかを確認する必要がある。
(実態調査報告書P25)
ことが強調され、「表示の根拠となる調査の内容については、一般消費者がその情報を確認することができるようにすることが望ましい」と言及されています。これは、JMRAの「ランキング広告表示に使用する調査データ開示ガイドライン(2022年5月)」でも推奨されていることです。
ただし、一般の広告主には少々荷が重い可能性があります。
一般論として、No.1表示が「合理的な根拠」に基づくというためには、(1)No.1表示の根拠とされる調査が、関連する学術界若しくは産業界において一般的に認められた方法若しくは関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること、又は、社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていること、(2)表示内容が(1)の調査結果と適切に対応していることの二つを満たす必要がある。(実態調査報告書P17)
だからこそ、私たちは調査の専門家として、ここにもっと関与する必要があるのです。JMRA・広告表示問題専門委員会は、引き続き消費者庁やJARO、広告業界の関連諸団体に協力するとともに、全国各地の商工会議所・商工会などにも広報・PRを働きかけて行きたいと考えています。
そのためにも、JMRAおよび会員社が「真っ当なランキング調査」を普及させる必要があります。
そもそも「No.1調査」という調査サービスはありません。「ランキング調査を実施した上で、その結果が(確かな)No.1だったら、その企業のマーケティング活動の勲章としてお祝いしましょう、宣伝にも使わせてもらいましょう」というのが本筋であることを再確認しておきたいと思います。
怪しげな調査会社には、最初から「弊社は調査結果を提供するだけで、その結果については責任を負いません」といった逃げ口上を用意しているところがあります。しかし、JMRAの会員社は調査結果の公表内容に責任を負うことを定められています。しっかりとした調査を実施する自信と力量があるからこそ、そう言えるのです。悪貨に良貨が駆逐されることのないよう、ご協力をお願いします。
JMRAとしても、上記ガイドラインをアップデートし、懸案の認証制度の仕組みを急ぎ構築しつつ、消費者庁をはじめとする行政のご協力をいただきながら、よりいっそうのPRに努めていく所存です。
以上
2024年11月19日