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解説:内製化率は約半数で拮抗、調査機関にはより戦略性が求められる
● ESOMAR第4回クライアント調査結果:使い分けの安定化と要求の高度化

画像

ないよう

ESOMAR GMR日本アンバサダー
一ノ瀬 裕幸


2025年4~5月に、ESOMARは2年ぶりとなる国際的な第4回クライアント調査(調査のユーザー及び発注者向け調査)を実施しました。
=> レポート(英文)のダウンロードはこちら(ESOMAR会員は無料)

前回と比べて生成AIの登場・普及という環境変化がありましたが、今回も内製化率は全体として48%で、クライアントの業種や地域による差異はありますが2021年以降大きな変動はなく、安定(あるいは拮抗)した様子がうかがえました。また、「ルーチン的な調査は内製で、複雑または専門的なプロジェクトは外注で」という使い分けも従前から変わっていないと見込まれます。日本からは31名の方々にご協力をいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。
国別の詳細データは公表されていませんが、日本の内製化率は40%と報告を受けています。前々回(2021年)が34%、前回が44%でしたので若干の減少となりましたが、ほぼ4割程度で安定化したのではないかとみられます。なお、AIの発展が「データだけでなく、意思決定を支援する有意義な物語を提供できるパートナーを求める」傾向に拍車をかけていると分析されています。

1.データをご覧いただく上での留意事項(調査概要について)
(1)連続性に限界
コロナ禍の2020年に開始されたこの調査は今年で4回目*)となりましたが、全体的な傾向に大きな変化はなく、国際的な内製化率(48%)は4年前の2021年調査結果から変わっていません。ただし、各回の回答者数や国別分布は大きく変動しており、同じ「ものさし」が適用されているとは言いにくいものがあります。今回は回収サンプル数も594sと前回(916s)の半数強にとどまり、うちロシアが106s(17.8%)を占めたことから、全体傾向の判断には注意が必要です。例えば、アジア太平洋地域の回答64sは、ほぼ日本、フィリピン、ニュージーランド、マレーシアの4カ国からです(前回は中国とオーストラリアが相当数を占めていました)。また、南米及び中近東地域の回答は意味のある数になっていませんでした。クライアント側の関心度がやや薄れた可能性も否定できません。
*)初回は2020年9月、第2回は2021年4~5月、第3回は2023年4月に実施
(2)回答者の属性は適格

とはいえ、ブランドを擁する事業会社(P&G、Coca-Colaなど)所属者が74%、英語の調査票への回答が87%を占めましたので、国際的な発注者から回答を得ていることについて疑義はなく、評価してよいと思われます。調査方法も従来と同様に、世界のESOMAR会員と、JMRAを含む各国市場調査協会を通じての呼びかけによって回答サイトに案内する方式によるもので、二重回答などはできません。

2.使い分けの安定化と要求の高度化
(1)全体の内製化率は48%だが、産業別・地域別には大きな差異
今回も全体の内製化率は48%でしたが、発注者の属する産業分類別では「学術/教育」の71%から「医薬品」の23%まで、大きな差異がみられます(図1)。前者は自ら分析を行う力量があるためと考えられますし、後者は各国(または国際間の)法的・制度的な規制が大きく、外部の第三者による評価が求められるためでしょう。
「CPG/FMCG(30%)」と「自動車(32%)」という、大手クライアントがひしめく産業界で比較的内製化率が低いことも、調査プロジェクト数の量的多さからみて妥当な結果と思われます。 (なお、こうした傾向は前回調査結果からもあまり大きくは変化していません)。

図1 産業別・内製化プロジェクトと外注プロジェクトの割合

地域別(図2)では、「北米(米国とカナダ)」が56%と高く、「アジア太平洋(49%)」と「欧州(47%)」が平均並み、「その他の国々」が36%となっています。 参考までに、アジア太平洋の中でも日本とニュージーランドは40%なのに対し、フィリピンが60%と国による開きが大きくなっているようです(サンプル数が小さくなるための誤差とも考えられます)。

図2 地域別・内製化プロジェクトと外注プロジェクトの割合

(2)クライアントの関心事は「アクションにつながるインサイト」でかわらず

クライアント内インサイトチームの課題と考えられている点についてみると(図3)、トップは「データ(だけ)ではなく、アクションにつながるインサイトを提供すること」で前回と変わりませんが、回答率は47%から40%へと減少しました。次いで「組織の変革に影響を与えること(同37%→34%)」となっています。上位4項目の大勢に変化はないものの、今回新たに選択肢に加えた「インサイト創出のためにAIを活用すること」が27%と5位に入り、対照的に前回3位だった「よりアジャイルになること」が35%から19%に激減した点が興味深く、注目されます。スピード重視が薄れたというわけではないと思われますが、相対的な価値は下がった可能性があります。
なお、やはり新たに加えられた「データのコンプライアンス」は4%程度で、まだそれほどの課題としては認識されていないとみられました。

内製化が進められているか、あるいは行き着いた調査プロジェクトは、基本的にルーチン化した業務や、AIを活用した自動化ツール等の導入によって内部処理化が可能な業務です。そうではなく、複雑な(難しい)業務や大量のデータ処理が必要とされる業務は、引き続き調査会社を含むインサイト企業に外注される傾向が見てとれます。

図3 インサイト創出に関する現在の課題(前回比較)

(3)クライアント内のチームも悩みは深く、有能なパートナーを求めている

さて、詳細はレポート本文を参照していただきたいと思いますが、今回の調査結果から、クライアント内のインサイトチームも悩ましい状況に置かれていることがうかがえました。それは、

  • 調査プロジェクトの業務量は増加を続けると見込まれている
  • しかし、チームのリソースは変わらない(= 増えない)
  • そうした中で、より多くの成果を出さねばならない(と、要求されている)

ためで、今まで以上のプレッシャーに直面するであろうことが危惧されています。


当然、現有戦力だけですべてをこなすことは難しく、必然的に社外のリソースを活用せざるを得なくなるであろうことが推測されます。その結果、

  • AIを有効に活用しつつ、
  • データ提供だけでなく、意思決定を支援する有意義な物語(ストーリーテリング)を提供でき、
  • 実践的なインサイトを創出することのできる、
  • (外部の)パートナーを求める

ことになると考えられています。つまり、われわれに対するクライアントの期待は、「より協力的で戦略的なパートナーシップ」に移行しているのです。 ひとつ問題なのは、そのようなパートナーが、必ずしも調査会社である必然性はない、ということです。しかし、調査会社がそうしたパートナーに最も近い存在であることは、疑いようがないでしょう。私たちが、期待に応えられる存在に進化または変身できるかどうかが問われているのです。

 以上

2025.9.17