ESOMAR GMR日本アンバサダー
一ノ瀬 裕幸
2025年9月、Esomarより『GMR (Global Market Research) 2025』と『GRS (Global Research Software) 2025』が公表されました。
2024年度の世界のインサイト産業市場規模は 1,533億ドルに伸長(前年比名目8.1%増)、リサーチソフトウェア(データ分析)部門が+11.5%で引き続き成長を牽引し、ビジネスサービス(レポーティング)部門も+8.1%と堅調でした。従来型の市場調査部門は成熟化し、低成長ながらも着実さを示しています(注:名称がいくつか変更されています)。部門間の境界はさらに曖昧になり、市場調査会社の売上高のうち、31%がリサーチソフトウェアに、 7%がビジネスサービスに、それぞれ「越境」していることが判明しており、今後もAIの普及がこの傾向を助長するものとみられています。
1.市場調査部門の成熟化と並行する多様化
図表1は、主要3部門別の市場規模と伸び率を示しています。なお、昨年までのレポートから表記が変わっており、より市場の実態に近い表現を目指しているとのことです。
- 市場調査: 561億米ドル(名目4.8%、実質1.8%)
(旧:確立された市場調査領域)
- リサーチソフトウェア: 622億米ドル(名目11.5%、実質7.8%)
(旧:データ分析、またはテクノロジー主導調査、MarTech)
- ビジネスサービス: 351億米ドル(名目8.1%、実質4.5%)
(旧:レポーティング)
図表1 主要3部門別市場規模と伸び率(2023→2024)
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また、ついでながら、ESOMARもEsomarへと、小文字表記に変更されました。これは、(誤解されやすかった)欧州中心の団体ではなく、名実ともに世界のインサイト産業界を代表する組織であることの宣言だそうです。つまり、Esomar は何らかの単語群の略称ではなく、1つの組織名であり、新しい 1つのロゴとして表現されることになったのです。
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図表2では、8セグメント別のより詳細な数値をご確認いただけます。
図表2 8セグメント別市場規模の推移と伸び率(2023→2024)・シェア

次に、図表3は市場調査部門のトップ20社のランキング表になります。
合計すると、この20社だけで2024年の世界シェアは推定54.3%に達します。近年の活発なM&A等による業界再編の結果、上位集中度はより高まったと考えられます。日本勢からは10位にインテージ、18位にマクロミルが食い込んでいます。
ただし、国際的な金利上昇等の影響により、2024年は投資ファンドの活動が低調で、比較的「静かな年」であったとみられています(NIQによるGfKの吸収合併は例外として)。
図表3 市場調査部門のトップ20社(2024)
2.GRSレポート取材記事のまとめーインサイト産業は新たな進化の段階へ
ここで、『GRS (Global Research Software) 2025』に掲載された取材記事の要点を紹介しておきたいと思います。同レポートでは、
- AIや自動化を駆使したアジャイル手法が主流になり、スピードと即応性が競争力の核心となる一方で、品質管理の仕組みがますます重要になっている
- シンセティック(合成)データがいよいよ実用段階に入ってきている
ことが報告されています。(詳細については、レポート本文を参照ください)。
(1)リアルタイムでアジャイルな調査がもたらす構造転換へ
AI や自動化を駆使したアジャイル手法が主流になるにつれて、クライアントも「いかに早く有意なインサイトを得るか」に追われている ・・・ 。が、同時に「このままでよいのか?」も問われるようになっている。
●品質を伴わないスピードは単なるノイズでしかない
- スピードと品質のジレンマ = スピードの追求が品質を損なうリスクに
- AI による自動検証システムの導入が、スピードと厳密性の両立に貢献できるか(できるようにしなければならないのでは ・・・?)
- 迅速な調査ほど透明性とコスト理解が重要 ⇔ 部分的理解に基づく拙速な意思決定は誤誘導を招く
● AI 活用を進めつつ、人間の新たな役割(倫理・プロセス・監視)を再定義すべき
- AI 活用が分析スピードを高め、調査手法のあり方を変えつつある(逆戻りはない)
- リアルタイム調査は従来法の代替ではなく、補完関係にある
→短期的なパターン探索と長期的な心理的洞察を組み合わせる「二段階アプローチ」へ
(2)シンセティック(合成)データの活用準備はできているか?
- AI は、私たちの活動のあらゆる側面を変革する可能性を秘めている
- 2 つの革新: a) 大規模言語モデル(LLM)の台頭、
b) 機械学習と統計モデリング技術の急速な進歩
● 合成データ(人から直接収集されない人工的生成データ)の登場と活用法
例)速度向上とコスト削減、到達困難なサンプルの増加、不足値の補完、シナリオモデリング
- モデルデータベースの合成 = アルゴリズムによって統計的構造を保持する合成レコードを生成・活用する
- LLM によってユーザーの回答をシミュレートする= 合成ペルソナ/デジタルツイン
● リサーチャーの新たな責任と、Esomar の実務者向けチェックリスト活用
- 合成データの活用は「補完」であって「代替」ではない、ベースデータの充実とモデリング専門性が不可欠となる
- 実験段階は過ぎ、実例の蓄積に基づいた品質管理の仕組みも考案されてきている
→ 今後、各種ガイドライン類の発行・継続的見直しへ(cf. ISO 20252 の改定にも反映される見込み)
※)レポートのダウンロードはこちらから: 有料(Esomar会員は無料)
『GMR (Global Market Research) 2025』
https://esomar.org/publications/global-market-research-2025
『GRS (Global Research Software) 2025』
https://esomar.org/publications/global-research-software-2025
以上
2025.11.18