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第50回 経営業務実態調査結果解説<前編>

解説1

日本の調査市場は前年比105.1%(実質2.4%成長)、トレンドは持続できるか ?

ESOMAR GMR日本アンバサダー 一ノ瀬 裕幸


1.従来型調査市場の概況

6月26日、JMRAでは第50回経営業務実態調査結果を公表しました。
報告書はこちら=> https://www.jmra-net.or.jp/activities/trend/investigation/

2024年の日本の調査市場規模は2,725億円で、前年比105.1%でした(昨年は100.1%)。IMFの統計によれば、2024年の日本のインフレ率は2.7%でしたので、実質102.4%の成長となります。昨年が実質マイナス成長に落ち込んだことを考えると、国際的に政治経済情勢が不安定化する中では健闘したとみてよいのではないでしょうか。

調査手法別データからは、アドホック調査が107.2%と復活した(昨年は99.9%)ことが、全体の伸びを牽引したことがわかります。特に、近年低迷していたインターネット調査の107.7%という伸長が大きいのですが(同98.8%)、既存手法も106.7%(同101.3%)と負けず劣らずの堅調ぶりとなっています。

2.インサイト産業8セグメントと海外受発注の状況

引き続き、ESOMAR提唱8セグメントへの拡大推計を行なっており、インサイト産業全体としての日本の市場規模は4,799億円(従来型調査市場比1.76倍、前年比106.7%)と見積もられています(次月号で詳報予定)。

一方で、集計母数は少ないものの、海外との受発注(インバウンド/アウトバウンド)が伸び悩んだことは懸念材料です。インバウンドは昨年のシェア5.1%が→ 3.6%に、アウトバウンドは同3.1%が→ 1.5%と半減しています。インバウンド比率は長く3%前後で推移していましたので、昨年の急伸がたまたまの結果(急激な円安相場の影響等)によるもので、「元のトレンドに戻っただけ」という可能性もあります。

3.その他のトピックス

(詳細データについては『第50回経営業務実態調査』報告書を参照ください)。

① 回答社数の変化による数値の変動に注意

毎年のことではあるのですが、調査年度によって回答社数が変動するため、比較的規模の大きな会員社の回収状況に差が生じると、統計数値がブレることがあります。継続的にデータをご覧いただいている方々にはご注意をお願いします。今回は特に表1の調査従業者数(7,104人 ←昨年6,160人)、1人当たり平均売上高(29.5百万円 ←同31.2百万円)の変化が大きくなっていますが、他のデータについても留意が必要となります。いずれも、同一集計母数間での比較(従業者数が7,104人 ←同6,804人、平均売上高が29.5百万円 ←同29.3百万円)が重要です。
なお、ここ数年はM&Aや小規模企業の廃業に伴う会員者数の漸減が続いていますが、回収率は高く(84.6% ←同82.7%)なっています。今回の結果のほうが、多少なりとも精度は向上したものと考えています。

② 在宅勤務率は下げ止まり(表2―6)

2024年3月時点の在宅勤務率は35.0%(昨年同月は36.7%)で、ほぼ下げ止まったと考えられます。職種による違いはありますが、全体としては「週1~2日の在宅勤務」が普及・定着したものとみられます。

③ 従来型アドホック調査の構造には大きな変化なし(表6―4)

ここ数年の従来型調査手法中のアドホック調査に注目すると、インターネット調査の比率が漸減していましたが今年は54.4%で横ばいとなり(過去4年間は57.6%→ 56.7%→ 55.1%→ 54.4%)、増加を続けていた質的調査の割合も23.0%と落ち着きました(同19.7%→ 21.7%→ 22.5%→ 23.7%)。既存の分類にはおさまらない「その他(詳細は不明)2.3%」がジワジワと増えてきていますが、まだ従来の構造を大きく変化させるまでには至っていないようです(広くインサイト産業に目を向けると話は異なりますが:次月号へ)。

④ 人材確保難の深刻化(表8)

当面する経営上の問題点として、今年は特に人材の確保難を訴える回答が目立ちました。「中堅リサーチャー不足(53.4%)」を筆頭に、「求人難(2位:42.0%)」「人件費高騰(同率2位:42.0%)」「調査員不足(6位:33.0%)」が上位を占めています。「調査の価格安(4位:38.6%)」「売上不振(5位:36.4%)」なども相変わらずで、「社員の調査スキル不足(同率6位:33.0%)」「コンサルティング力不足(8位:31.8%)」などの育成課題が続いています。総じて、人材確保と育成がより重要な課題になっているものとみてよいと思われます。

また、2025年の見通しは102.0%とやや弱気で、このまま成長トレンドに復帰できるだけの自信を伴っていないとみられます。世界的な政治経済情勢の先行き不安も反映されている可能性があります。

4.所感

(以下は筆者個人の見解であり、JMRAを代表するものではありません)

激変を続ける国際的な政治経済情勢を受け、不透明さが増してますます将来予測が難しくなっているところではありますが、今回の業界統計データからは「下げ止まり、ないしは復活の兆し」がうかがえ、分析担当者としては「ホッとひと息ついた」感がありました。ただし、世界的に進化を続ける生成AIの動向や、インターネット調査の品質課題(回収率低下や詐欺回答の増加問題)にみる構造的な危機の進展を考えると、何ら楽観を許さない状況が続いていることに変わりはないと思われます。

この6月12日にはESOMAR綱領の改定が採択され、日本でも10月2日の50周年記念カンファレンスで新産業ビジョンが公表される予定です。次月号では、国際的な視点を織り交ぜながら、リサーチ周辺領域の動向に着目してみたいと思います。

以上

2025.7.15掲載