第4部 インサイトのインパクトを最適化する
第33章 認知を高める
JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子
前章では、インサイトリーダーは、自部門を市場における企業のように考え、ブランドが認知の枠組みを作る上で重要な役割を果たすことを認識すべきだと提案した。これは、ロゴやキャッチフレーズのような視覚的手がかりにとどまらない。チームの目的、他の部署への約束、個人的なブランドが他の人の認識に与えるプラスとマイナスの影響について考えることも含まれる。
しかし、多くのインサイトリーダーは、マーケティングチームが自分たちのブランドが何を表すべきかの細かいニュアンスを議論しているのを端から見て、おそらく市場のほとんどの消費者ではなく企業内の一部の人にとってのみ重要な意味を持つ細かいことにひどく興奮している。そもそも誰も自分達の会社のことを知らないのであれば、詳細なブランドコンセプトを開発する意味がない。
インサイトチームの社内でのポジショニングについても同様だ。私たちはインサイトのブランドについて考える必要があるだけでなく、単にインサイトという概念や部門としてのチームの認知度を促進する必要があることが多い。インサイトの社内市場は常に変化しているため、これには臨機応変な考え方が必要だ。誰もが自分たちのことを知っていると思い込むのは容易だが、大企業ではおそらくそうではなく、大規模な組織再編があったり、新しい幹部職が着任したりするたびに、再スタートしなければならない。
IMAは、意思決定者への影響力に関する研究の中で、幹部職の多忙な世界に注目してきた (第12章参照) 。上級幹部職は多くのプレッシャーにさらされており、大きな意思決定にはビジネスリスクと個人的リスクの両方が伴うことを私たちは認識している。上級幹部職は、非常に錯綜した情報環境の中で仕事をしている。
消費者の世界では、プレッシャーにさらされ情報が多すぎて頭が回らないとき、私たちは馴れ親しんだ組織に頼る。他の企業を探したり、その企業が提供しているものを評価したりする時間がない。そのため私たちはすでに試したものに固執する。社内のステークホルダーも同様だ。プレッシャーが強ければ強いほど、時間がなければないほど、そして競合の声が大きければ大きいほど、彼らは助言を得るために最初に頭に浮かぶ人や部門を頼る。それは単に、他の誰もが頼るアドバイザーに頼ることを意味することもある。私たちがそのようなポジションを望むのであれば、どのようにすればインサイトとインサイトチームの認知度を高めることができるのだろうか?
ベストプラクティスとは何か?
IMAが世界中のインサイトチームと取り組んできたことは、チームを推進したいインサイトリーダーにとって良い出発点となる。IMAのメンバーの経験から、次のことが示唆されている。
- 野心的なマインドセットを身につける:チームとその仕事を社内でもっと有名にするつもりで毎日出勤すること。
- チームを宣伝するあらゆる機会に常に注意を払う。
- 好機を逃さないよう、よいポジションに身を置く
- 突発的なチャンスを逃さないよう、チーム活動計画を再設計する
- 上級幹部(役員)をターゲットとして、トップの意識を高める方法を計画する
- 社内コミュニケーションチームと緊密に連携することで、信頼性とプロ意識を高める。
- 積極的で創造的な行動を心がける。
個々のメンバーは、より具体的な方法を見出している。例えば、英国の小売業者マークス・アンド・スペンサーのインサイトチームは、2週間のカスタマーインサイトフェスティバルを開催し、1, 700人の社員が参加した。また、国際的な金融サービス会社リーガル・アンド・ジェネラルのインサイトチームは、インサイトロードショーに着手し、全本社で高齢の消費者に関する自分達の仕事を紹介した。これには、アプリを使って若い社員が定年退職を迎えたときの姿を見せるなどの楽しい要素が含まれていた。インサイトとは関係がないと言われるかもしれないが、本社チームを巻き込み、高齢者のニーズが自分たちと大きく異なることを理解させる素晴らしい方法だった。
組織が大きくなればなるほど、特に小さなチームの場合は、知名度を上げるのは難しくなる。現実的には、非常に多くのビジネスプロジェクトをサポートする場合は、オーダーメイドの仕事をすることはできない。このような不利な状況を克服するためにメンバーが模索してきた方法の1つは、代表的な仕事を特定し、それを推進することだ。つまり、意思決定者にとって記憶に残り、かつ有用なインサイトを生み出す能力を実証できるプロジェクトだ。典型的な例としては、顧客のセグメンテーション、将来のトレンドの分析、調査のブランドのリポジショニング調査などがある。社内での認知度は、たった1つか2つの非常にインパクトのある仕事があるだけで大きく左右されることがある。もしそのような仕事が手元にある場合は、必ずそれについて宣伝をしよう。必ずしも典型的なチームの成果を示す必要はない。分析や調査の方法は、おそらく事業戦略の紹介よりも重要ではないだろう。
これがうまくいっている例としては、ロンドン交通局で、インサイトチームが顧客のペインポイント(顧客が苦痛に感じる点)に関する取り組みを推進している。これは、上級ステークホルダーの共感をよび、多くの支持を得た。交通業界で働く人は皆、友人や家族から移動の際のトラブル話を日常的に聞かされているので、身近なトピックを活用した。
もう一つの例は、IMAの同僚の一人であるティム・ダウニング氏が、国際的なビールメーカーであるモルソン・クアーズのインサイト&フォアサイト・ディレクターを務めていた時の話だ。彼らは、消費者動向に関するプロジェクトの可能性を見出し、その調査結果をできるだけ広く巡回宣伝することにした。こちらもこの記事が意思決定者の心に響いたのは、彼ら自身が消費者として認識できるトレンドに関連するため共感を得ることができ、エンゲージメントを得るのは容易だった。
バークレイズで働いていたときの私のお気に入りの一品は、各支店長に送っていた年次報告書だった。カラフルな地図と図表が満載で、各支店の地域市場やビジネスのシェア拡大のチャンスについて説明していた。このインサイト・プロジェクトは、本社は支店ネットワークをサポートするために存在するというバークレイズが共有する情熱を利用したもので、光沢ある報告書という物理的なアウトプットがあったので、このプロジェクトはあらゆる種類のプロモーション活動に適していた。これには、CEOが訪問する直前に各支店の報告書を送付したり、インサイトチームが報告書のコピーを他の会議に持って行き、会話のきっかけとしてテーブルに置いたりした。
成功しているインサイトチームの33番目の秘訣は、常にインサイトの認知度を高める方法を探すことである。
重要ポイント:
- インサイトチームのブランドに関する巧みなアイデアも、社内でインサイトチームの存在を知っている人がほとんどいなければ、時間の無駄である。
- 認知度を高めるには、起業家精神とチャンスに対する瞬発力が必要だ。あらゆるプロモーション機会を見極めなければならない。
- インサイトの宣伝は必ずしも容易ではないため、主要なステークホルダーに合わせたメッセージを届けるための適切な計画が必要である。
- 自部門の代名詞となるような重要な仕事を特定し、宣伝する
- 際立つ自部門らしさ(シグネチャーピース)は、その時々の問題に関連し、根源的な価値があり、営業的成果に直結する。