JMRA・広報セミナー委員会
多様なるマーケティング・リサーチの新潮流に触れる著者が語るシリーズ2025
第1回2025年5月22日 開催レポート
広報セミナー委員会 片岡裕介
本年度セミナーの第1回目は芹沢連氏にご講演いただいた。
<略歴>
株式会社コレクシア コンサルティング事業部 執行役員
一般社団法人日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI) 研究主幹/フェロー
マーケティングサイエンティスト。
数学/統計学、心理学/文化人類学などの理文両方に幅広く精通し、化粧品、自動車、金融、メディア、エンターテインメント、インフラ、D2Cなどの戦略領域に従事し、エビデンスベースのコンサルティングで事業会社のマーケティング活動を支援。執筆や講演活動を活発に実施しており、エビデンスベーストマーケティングの日本国内の浸透活動に取り組んでいる。
著書に『顧客体験マーケティング』(インプレス)、『“未”顧客理解:なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』(日経BP)。近日新刊が予定されている。
講演では、著書「戦略ごっこ」の全三部構成の中から主に「序章」と「第一部 WHO以前の問題 消費者行動の規則性」から解説をいただいた。
マーケティングにおける「戦略ごっこ」とは、事実に基づかない戦略、施策立案を指し、エビデンスベースドマーケティング(EBM)の重要性が強調された。また、消費者行動の規則性・ルールやマーケティング施策が効果的な変数に関する知見が共有された。
-
エビデンスベーストマーケティングの意義: マーケティング戦略は根拠ある事実に基づき、再現性のある規則性を確認することが重要である。多くの定説や理論は検証すると必ずしも有効でない場合がある。
-
「戦略ごっこ」の定義: ロジカルだがファクトに基づかず、目的と手段が合致しない施策を「戦略ごっこ」と呼ぶ。真の戦略は事実に基づき納得感のある物語である必要がある。
-
「戦略ごっこ」が起こる理由: マーケターの思惑で原因と結果に因果関係のない施策立案や、マーケティングでコントロールできない要素を変えようとするために発生する。
-
マーケティングで介入可能な変数: 売上を構成する要素のうち、顧客数がマーケティング施策でコントロール可能な主要変数であり、購入頻度などは個人の定数要素が強い。
-
未顧客戦略とダブルジョバディの法則: 市場の大半は未顧客であり、購入頻度を高める施策は効果が薄い場合が多い。市場浸透率を高める施策を実行することで、その結果としてロイヤリティが高くなる。従って、ロイヤリティ向上主とする施策は「戦略ごっこ」に分類できる。
-
ロイヤリティの役割: ロイヤリティは売上牽引の主因ではなく、市場浸透率の動きを補強する役割を持つ。ロイヤリティ向上だけでは成長に限界がある。
-
既存顧客施策の限界: パレートの法則は長期的な売上を観察した時に見られる傾向であるため、短期的施策で上位顧客のみを対象とした施策は売上の大部分をカバーできず不十分である。
-
離反率の性質と新商品: 離反率は一定割合で発生し回避困難。ただし、新商品投入で流入客を取り込むことによって離反者の影響を相殺できる。新商品を出さないブランドは縮小傾向にある。
■その他質問コーナーではいくつかの質問に回答いただいた。
・中小企業におけるエビデンスベースドマーケティングの活用
・今後のAIツールのあり方、活用
芹澤氏から、「EBM」に基づいた施策を実践している企業から、じわじわ効果が出ているとの声が上がっているとの報告があった。
多くのマーケティング理論、フレームワークは、エビデンスに基づいていると信じている我々の「確証バイアス」に一石を投じた「戦略ごっこ」の著者である芹澤氏が、投げかける「その理論、定石は本当なのか?」というシンプルな「疑問」はマーケティングだけでなく、今に時代に必要とされていることである。「エビデンスベース」というリサーチを支える重要キーワードを改めて「自分事として」捉えて、更には「自身の業務に活かしていきたい」という刺激をいただいた。マーケティング・リサーチにおいて重要な観点の一つである「エビデンスベース」は、マーケティング・リサーチに関わる身として常に忘れてはならないことであると改めて認識した。
2025.07.30掲載