JMRA・広報セミナー委員会
多様なるマーケティング・リサーチの新潮流に触れる著者が語るシリーズ2025
第2回2025年8月29日 開催レポート
広報セミナー委員会 矢部裕紀子
本年度第2回目のセミナーは、トレードマーケティングの第一人者である井本悠樹氏にご登壇いただき、著書「トレードマーケティング 売り場が勝つための4つの実践」について、オンラインにて解説をいただきました。
井本氏は、現在、トレマ株式会社 代表取締役社長です。P&G、ジョンソン・エンド・ジョンソンでの豊富なご経験を経て、19年4月に、トレードマーケティングコンサルティング会社「株式会社キャプロ」を創業、25年8月に社名を「トレマ株式会社」に変更し、大手メーカーやD2Cブランドの流通施策や組織構築をご支援されています。また、「株式会社フェズ」にも参画し商品企画や販売を牽引され、現在、自社リテールメディアサービスのBtoBマーケティング責任者に従事されています。
トレードマーケティングとは、「営業活動をマーケティングする」ことです。昨今、4つ(メーカー、小売、消費者、ショッパー)の環境変化(原料高、M&A、PB拡大、消費者のデジタル化、こだわり消費、購買頻度減少等)が同時に急激に起こり、良い商品を作っただけでは売れない環境になっています。各環境のニーズやインサイトは変化し、従来の経験則ベースのプランニングが通用しづらくなり、インサイトベースの戦略策定が求められています。そこで、メーカーと小売との取り組み課題を解決する領域がトレードマーケティングの価値となり、近年注目されています。
ブランドマーケティングとの大きな違いは、対象者が異なるという点と、ブランドマーケティングが消費者の「想起のしやすさ(メンタルアベイラビリティ)」を高めるのに対し、トレードマーケティングは「買いやすさ(フィジカルアベイラビリティ)」を高めることに注力する点です。
フィジカルアベイラビリティを最大化する重要なレバーには、「店内タッチポイントの量と質」「ショッパーコミュニケーションの質」の2つがあります。また、フィジカルアベイラビリティを意思決定しているのは、小売・バイヤーであるため、メーカーは小売・バイヤーのインサイトを理解することが重要です。
バイヤーの意思決定は「売りたいか」「売れるのか」の2軸で構成されます。「売りたいか」には、さまざまな心理的・物理的課題払拭に対する期待感があるのか(例えば、カテゴリー全体が成長できるのか、売上要素(客数・客単価等)があがるのか等)、「売れるのか」には、商品や企画の充実度に対して、ファクトの提示とインサイトの言語化/証明することにより、ショッパーが手に取ってくれるかという期待を確信に変えることが必要です。
井本氏のトレードマーケティングを日本に根付かせたいという熱い想いがよく伝わるご講演でした。マーケティング・リサーチは、バイヤー・ショッパーインサイトの言語化や仮説構築の可視化に対して、メーカーの営業活動の質を高める重要な役割を担うことができるはずです。日々精進しながら、トレードマーケティング領域の発展、各ステークホルダーのWinWinな関係構築に貢献していきたいと思いました。
以上