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タイトル

JMRA創立50周年記念特別企画
「調査会社トップに聞く: 新産業ビジョン後の事業戦略」インタビューのまとめと産業の展望私論(2026.05.12)

本文

リサーチ・イノベーション委員会
高橋 直樹


1. 本稿の位置付けと内容の性質

本稿は、内容の性質として2つのパートから成り立っている。
前半(「3. インタビューのまとめ」まで)は、JMRA創立50周年記念特別企画として2025年度に実施されたJMRA加盟会社の経営層へのインタビューの内容を、インタビューを担当した筆者がまとめたものである。インタビューの公開範囲(後述)に鑑み、各社の発言が個別に識別されないようなまとめ方としている。まとめに際しては、別の文脈で2023年度に実施されたJMRA加盟の中堅規模の会社の経営層へのインタビュー結果も参考にしている。
後半(「4. 業界外の視点から見えてくるもの」以降)は、筆者が今回のインタビューを契機として考察した、この業界の今後の姿の見立てとそこでの戦略シナリオの私論である。このパートにおいては、インタビュー対象者の方々の発言は、考察の刺激の一つという位置付けであり、内容的に関連はするものの、ここでの議論の論拠や引用の対象とはしていない。

2. インタビューの概要

  • 趣旨と目的:2025年JMRAアニュアルカンファレンスにて発表された「新産業ビジョン」を受けて、JMRA加盟大手社の「次の50年」に向けた事業構想や実際の取り組みを聞き、協賛各社のイノベーション戦略の参考に資する。
  • インタビュー対象者:JMRA加盟社の中から5社の経営トップ(インタビュー実施順)
    • 株式会社インテージホールディングス 仁司与志矢氏
    • 株式会社ネオマーケティング 橋本光伸氏
    • 株式会社マクロミル 佐々木徹氏
    • 合同会社カンター・ジャパン 佐々木亨氏
    • 株式会社クロス・マーケティンググループ 五十嵐幹氏
  • インタビュー日程:2025年12月〜2026年3月
  • インタビュー配信司会:リサーチイノベーション委員 一ノ瀬裕幸
  • インタビュアー:リサーチイノベーション委員 高橋直樹
  • インタビュー項目:新産業ビジョンの受け止め、自社の戦略との関係などを中心に非構成的な定性インタビューとし、具体的な質問のしかたは対象者によって異なる。
  • インタビュー配信:インタビューはインターネットでライブ配信され、実施後約1ヶ月間アーカイブ視聴可能とした。視聴は当企画に協賛したJMRA加盟社の社員のみに限定した。
  • 2023年度のインタビュー:JMRA加盟各社のビジネスの軸足の現状と今後の展望、及びそれらに影響を及ぼす諸要因を定性的に理解し、JMRAの今後の業界支援活動を構想する上での仮説を策定することを目的として、2023年9月〜2024年1月にかけて実施した。JMRA加盟の中堅規模企業9社の経営トップを対象者とした個別インタビュー形式で、インタビュアーは一ノ瀬委員、高橋委員、対象企業やインタビュー結果は非公開とした。

3. インタビューのまとめ

この項では、インタビューでの発言内容を、対象者が特定されない形でその概要をまとめた。言わずもがなではあるが、各社の戦略や取り組みの背景には、AIや多様なデータによるリサーチの代替、クライアントにおける内製化、対象者の協力環境の悪化などがリスクとして各社概ね同様に認識されている。
各社の戦略に共通して見られるのは、「旧来のリサーチ領域のコア価値を効率化・深化させつつ、リサーチの上流・下流への領域拡大を目指している」という方向性である。

(1) 旧来のリサーチ領域のコア価値の効率化・深化

旧来のリサーチ領域は、前述した背景にあるような縮小のリスクはあるものの、インターネットなどからは入手できないデータの入手手段としての需要は残る。自らを侵食してくるAIに学習データとして提供するという需要も含まれると考えられている。また、観察、使用・官能テスト、実験など、生身の人間を対象としないと成立しない手法は代替が難しく、今後も提供価値の拡大・高度化が見込める領域であろう。さらに、委託案件の規模を、個別商品から事業単位に拡大させることで、そうした案件では難しいツール化や内製化に対抗するという選択肢も有望と見られる。また別の方向性として、クライアントにおけるリサーチのAI化自動化のスキーム構築の受託は、競合は多いがリサーチ会社にとって事業対象となり得るであろう。一方、提供価値の維持・拡大の方向性の違いによらず、AIなどのテクノロジー活用によってリサーチ会社内でのプロセスのスピード化、低コスト化は必須である。また、リサーチパネルの質と数の担保は重い課題として残り、即効性のある解決策はなかなか見出し難いものの努力を続けるべきと捉えられている。

(2) リサーチの上流への領域拡大

ここは「新産業ビジョン」の趣旨と大いに響き合う領域である。リサーチ課題に落ちる前のビジネス課題の段階から関与し、その整理・知見提供を行なうことで、リサーチ案件受託に繋げるだけでなく、ビジネス課題解決のパートナーとしての長期的な関係を構築し、クライアントから頼りにされ、選ばれるポジションの獲得が目論まれる。上流ではクライアント内で関与する部門が広がるため、リサーチ以外の部門からの受注も(リサーチ部門との関係次第ではあるが)見込める。複数部門との関係構築は、クライアント内でのビジネス課題解決をコーディネートするハブとしての機能を担うことで、より戦略的な案件獲得を狙える可能性がある。

(3) リサーチの下流への領域拡大

リサーチの結果を用いるビジネスプロセスの一部を代行受託する方向性である。商品コンセプト、パッケージ、クリエイティブなどの開発・制作代行、広告・SNS・PR・コールセンター運用などの代行、意思決定支援(論点やデータの整理、選択肢の評価、ツール提供)などが想定される。こうした各方向性への取り組み方において、各社の立ち位置や得意領域の違いなどによる個性はあるが、想定されるビジネス領域は共通点が多く、方向性の濃淡が各社で違う程度と言って良いであろう。
いずれの方向性も、既存の能力の高度化やこれまでにない能力の新たな獲得が必要となる。新たな領域に拡大するにせよ、今の位置にとどまるにせよ、異業種やクライアント自身(内製化)との競合激化は避けられないため、新たな提供価値とそのための新たな能力の獲得・活用は必須であり、それは単なるAI活用にとどまらないと考えるべきだろう。

4. 業界外の視点から見えてくるもの

前項では、いわば業界内の視点から、この業界のリスクや機会、各社の取り組みを見てきたと言える。そこでこの項では、業界外の視点からはどのような見方ができそうかを論じてみたい。冒頭でお断りした通り、この項の内容は筆者の私見によるものであり、今回や2023年度のインタビュー対象者の発言を踏まえているわけではないことにご留意いただきたい。
上流・下流へ領域拡大してビジネス貢献するとは要するにどういうことだろうか? ビジネスは、計画と実行に分けられるので、計画のための意思決定を支援することと、実行の一部または全部を代行すること、と定義することができる。意思決定のしかたは一様ではないので、その頻度とそのインパクト(間違った場合のリスクの大きさ)で4つに分類し、さらに今後5〜10年程度の変化の予想を加えて下記のように整理してみる(図1)。

A)
頻度大・インパクト小
既存商品のオペレーションなど → テクノロジーによる自動化が進みそう
B)
頻度中・インパクト中
既存商品の改善やライン拡張など → ツールを用いた内製化が進みそう
C)
頻度小・インパクト大
ブランドのカテゴリー拡張、新規コンセプト商品開発など → 消費者理解が主軸となった外注が続きそう
D)
頻度極小・インパクト極大
ブランドのM&A、ビジネスモデル変革など → 外注が続きそうだが消費者理解は脇役

分類Aは、プロセス進捗のシステム化・自動化の度合いが最も大きいが、委託案件一件あたりの単価は最も安い。分類Dはその逆の傾向となり、BとCはその中間に位置付けられる。

こうした類型化・変化の背景にあるのは、産業に関わらず進行するビジネスのアジャイル化、商品のコモディティ化、ビジネスモデルの高度化などのマクロトレンドである。食品・雑貨などコモディティ化が進む市場では、分析・予測テクノロジーの進化などにより、どういう場合にどのようなアクションを打つべきかという最善策がかなり絞り込まれており、打ち手やそのための意思決定の枠組みは定型化してきている。つまり、AやBに分類される意思決定そのものがコモディティ化してきていると言える。こうした意思決定に求められるのは、「速い」「安い」「間違わない」という要素であり、(勝つというより)「負けない意思決定」をすることがゴールとなる。こうした意思決定はなるべく人手をかけずに行ない、浮いた貴重な時間やリソースを、より戦略的に重要なCやDタイプの「勝つこと」がゴールの意思決定に振り向けることになる。

図2は、この分類と私見に基づいて、近い将来におけるビジネスプロセスの進め方を俯瞰したものである。

このようにビジネスプロセスを進めていくことになるのだとすると、これを支援するビジネス機会はどのようになるのだろうか。やはり私見に基づいて図3のように想定してみた。

この図全体は、「ビジネスプロセス支援ビジネス」と括れるBtoBビジネス領域を俯瞰していることになるが、この中で最も上流にあり最重要なサブ領域は意思決定支援の部分であり、「⑤意思決定スキーム設計、予測システム開発・運用」を押さえることが他のビジネス機会に大きな影響を及ぼす。したがってこの図の領域全体は、「意思決定支援ビジネス」と呼ぶ方が適切かもしれない。
前項で議論された各社の戦略の方向性をこの図に当てはめると、「旧来のリサーチ領域のコア価値の効率化・深化」は、この中で主に図3の①および②の一部に該当し、「上流への領域拡大」は②の一部、「下流への領域拡大」は⑦の一部に該当すると言える。一つずつ見ていこう。

(1) 旧来のリサーチ領域のコア価値の効率化・深化

これまでは、意思決定の分類AやBのためのリサーチ案件が多かったのだが、その意思決定や実行が自動化・内製化されていくので、①の領域で提供が求められるのは、DIY調査のためのパネルやそのためのツール、あるいは過去データ・パネルデータとなる。しかし必要なデータが定型化されているので、ここで求められる付加価値や単価は低下することになると考えられる。旧来の進め方でリサーチが運用されるのは分類CやDに該当する意思決定ということになり、課題の大きさに鑑みて単価は高いが、案件量はかなり少ないと考えざるを得ない。ただ、観察、使用・官能テスト、実験など、手法によっては自動化・内製化への耐性が高いものもありそうだ。

(2) 上流への領域拡大

AやBに該当する意思決定は自動化・内製化されていくので、ビジネス課題の整理や必要なデータ要件もあらかじめ決まってしまうことになる。そうなると②のようなことを行なえるのは分類CやDに該当する意思決定に限定されることになりそうであり、上述と同じく単価は高いが量は少ないという問題に直面する。

(3) 下流への領域拡大

⑦に該当する領域で、それぞれの分野を手がける専業企業との競合は激しい。また⑦の中でも意思決定Aの部分はどのように実行するかもあらかじめ決まっているため、発注先も固定されている可能性が高いと考えられる。

どの方向性も手放しに前途洋々というわけにはいかないようだ。では何が必要なのだろうか。意思決定の分類CやDに該当するリサーチ関連の案件が、高難度・高単価・少量で、これを事業の主軸に据えられる企業は少ないであろうことに鑑みると、意思決定AやBに該当するビジネスをどのように支援して対価を得るのかを考えることが最大のポイントである。
どのようなデータ、リサーチ結果、ツールなどを提供するかは、それをどのように使うかによって決まり、さらにそれは、どのように意思決定して実行に落とすかで決まる。つまり「意思決定のしかたを決める」ところ、すなわち図3の⑤が最上流だということになる。この最上流の構築や運用に関わることができなければ、「他社の決めたやり方で意思決定のパーツを提供する」以上の価値提供は難しいのではないか。ダッシュボードやツールを開発しても、それが⑤で決められたプロセスに適合できなければ採用されないというリスクがある。
⑤で行われるのは、意思決定の枠組み(課題の定義のしかたと判断基準)を決め、選択肢を創出してそれぞれの選択肢ごとにどのようなビジネスの帰結が得られるか予測・シミュレーション結果とともに提示し、選んだ選択肢における目標値設定とそれを誰がどのように責任を持つか、どのように振り返るかまでを決めること、と想定できる。⑤としたビジネス機会は、これらのプロセス構築・システム開発・運用を提供することを指すが、これを手掛けられる企業は多くの場合はリサーチ以外の出自であろう。さらにはこれらビジネスプロセス全体を変革・構築・運用するより大きなビジネス機会⑧も存在し、そこにはさらに大きな競合が攻勢をかけている。

5. 戦略の方向性

ではどのような生き残る道が考えられるだろうか。

<戦略1>意思決定スキームの構築・運用に関わり、その傘下にあるビジネス機会へのアクセスを容易にする(図3の⑤に取り組み、①③④も合わせて取りに行く足場を固める):ビジネスコンサルティングやシステム開発・運用の能力が必須となるため、リサーチ出自の会社が1社だけで手掛けるのは難しく、必要な能力・経験を持つ他業種企業との連携が必須と考えられる。むしろ、他業種企業による⑤の領域の案件化はすでに進行しているであろうから、そこに加わるというスタンスになる可能性が高そうだ。

<戦略2>他社の意思決定スキームに適合するようなパーツ(ツールやデータ)を提供する(同⑤は諦め、①③④などに注力する):多様な意思決定の枠組みが乱立してくると想定されるが、その一つ一つに(システム的に)カスタマイズしたアウトプットを納品する必要がある。また相手の要件に合わせた中では差別化が難しいので、価格競争が激しい領域になるのではないか。そのため、テクノロジーによる自社内業務効率化は必須となる。

<戦略3>他社が入って来にくい高度で少量の案件に集中する(同②):専門性が高い人材を擁する小規模の企業に向いた戦略。大手企業でもその中にこの領域を主に手掛ける独立した部門を設けて対応することも可能だろうし、その場合はここでの知見を企業内の他部門のビジネスに活かすようなビジネス展開を考えるべきだろう。

<戦略4>どのような種類の意思決定でも対応できる下流部分の代行を手掛ける(同⑦):下流部分といっても多種多様な領域があり、そこに軸足を持つ専門性の高い競合企業が存在する。そうした企業に伍して勝ち残るには、消費者や市場に関する洞察を持っていることは有利だが、アイデア創出や実行計画立案に直結するアウトプットが求められるため、これまでのような「客観的・中立的な立場」というスタンスから離れた立ち位置を取る必要があると考えられる。

6. 私たちは何産業にいるのか?

上述した「意思決定支援ビジネス」は、時を経ずして意思決定そのものを代行する「意思決定代行ビジネス」に進化するに違いないし、すでにそうなり始めているだろう。そうしたビジネスのマネタイズ手法は、案件ごとの受注方式だけでなく、収益額やROIに応じた成功報酬である可能性も高い。
自らをどう捉えるかを間違えると、競合相手や協業相手を読み間違え、戦略を誤り、生きる道を狭めてしまう。私たちは何産業なのか? リサーチ産業は言うに及ばず、もはやインサイト産業でもなく、意思決定代行産業の一部とみなすべき時期に来ているのではないだろうか。
本稿、特に後半部分は筆者の私論であり、これのみが正解と主張する意図はないが、かといって無責任な想像に任せて書き散らかしたものではなく、一定の根拠と蓋然性を感じていただけるのではと思う。「こんなことはとっくに議論していて今さらだ」とお感じの読者の方には筆者の浅慮をお詫びする。少しは意味がありそうだと思っていただいた読者の方にとって、本稿が今後の各社・業界の戦略を考える上での論点整理の一つとして何らかの刺激になればと願っている。

以上

2026年5月12日掲載

いけんぼしゅう

※)JMRAリサーチ・イノベーション委員会では、この寄稿に対するご意見やご感想を募集しています。6月中を目処にそれらを踏まえた討論会の開催を企画いたしますので、ご意見等のある方は事務局宛てメールにてお寄せください(様式は問いません。メールの件名(タイトル)のみ「JMRAリサーチ・イノベーション委員会への意見・感想」としてください)。

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