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ほんぶん

第1部 組織にとっての価値を特定する
第10章 システムの開発

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


ここまでの3章(7章・8章・9章)では、インサイトを蓄積し、顧客や市場のナレッジベースを開発することの重要性について探ってきた。しかし、多くのリサーチャーやアナリストがナレッジについて語るとき最初に提案するだろう一つの側面、システムについてはほとんど触れていない。
ナレッジシステムは、多くのインサイトチームの進化に不可欠な要素であり、今日利用できるシステムの中には非常に高度なものもある。インサイトへの要望の記録、プロジェクト管理、調査結果の記録、検索機能などのさまざまな機能を備え、最も高機能なものでは人工知能を使って関連資料を呼び出すものもある。また中には、少なくともインサイト機能に関しては非常に高額なものもあるが、その多くはきれいにパッケージ化されており、一緒に仕事をするのが楽しくなるような製品だ。

ではなぜこの「トランスフォーミング・インサイト」という本では、この第10章まで、システムについて語るのを待ったのだろうか。

この15年間、IMAでは何百人ものインサイト・リーダーと話し、オフィスを訪問して、理想的な欲しいと思うシステム、または開発中、導入中、交換中のシステムについて議論してきた。そしてこういった会話でいつも明確になるのは、いくつかすばらしいものもあるとはいえシステムそのものが重要なのではなく、インサイトが組織で効果を発揮させようとするならシステムがどのような役割を果たす必要があるのかを見極めることなのだ。

どんなに優れたシステムであっても、組織におけるインサイトの目的と役割を理解し、コンサルタントとして重要なビジネス課題を明らかにし、科学捜査班のようにインサイト調査に取り組み、インサイトを活用して知識を深めることに代わるものではない。システムはあくまで手段である。これが私が最初にインサイトの目的について述べた理由だ。

インサイトチームはシステムからどんなサポートを必要としているのか。
特定すべき多くの側面があるため、ここではインサイトシステムの非技術的側面に焦点を当てた10件のスタートアップを紹介する。
インサイトのナレッジシステムは、それほど高度である必要はない。先週のリサーチのカンファレンスでデモを見たシステムを構築したり購入したりするために10万ドルも会社が提供してくれないという理由で、この章を読み飛ばしたくなったという方も安心してほしい。非常に優れたインサイトチームの中には、よく整理された共有ドライブ、Excelスプレッドシートのプロジェクトリスト、プロジェクトレポートへのハイパーリンクで長年管理しているものもある。重要なことは、これまでの章で説明したインサイトの目的をサポートするプロセスを熟考し、それを支援するシステムを開発するために利用可能な予算を使用することだ。

組織に対抗するのではなく、組織と協力しよう。多くの企業では市販のサードパーティのシステムを採用できないといった制約があるため、使えるものを使うようにしよう。一部の企業では、標準的なMicrosoft製品や、会社のイントラネットを利用する場合もある。IMAの会員の中には、Microsoft SharePointを使用して非常に優れたナレッジマネジメントシステムを開発した人もいる。これは、Microsoft SharePointがイントラネットサイトのプラットフォームとして選ばれたためだ。もう1つのヒントは、インサイトポータルを、社内広報チームやその他の「公式」の企業情報源と連携させることだ。

インサイトシステムは複数の目的をもつことが多く、また複数のユーザーグループを持つことが多い。典型的な例としては次のようなものがある。

  • 内部ユーザー、つまりインサイトチーム自身が要望を記録し、プロジェクトの調査結果をファイルし、新しい調査や分析を始める際に蓄積されたインサイトを素早く取り出すことができるようにすること。
  • 外部ユーザー、他の部門の同僚がインサイトチームへのサポート依頼を記録したり、プロジェクトの進捗を確認したり、過去のプロジェクトの結果を見つけて自分で解決するなど。またアクセス権を与えれば、第三者機関も含めることができる

まず、インサイトチーム自身のニーズから始めよう。奇妙に聞こえるかもしれないが、どれだけ多くのブランドマネージャーやマーケティング幹部が、あなたがポータルに新しい文書を投稿した時に電子メールがアラートを出すよう登録しても、またはインスピレーションを求めてあなたの最新のレポートを閲覧しても、開発するナレッジシステムを最も頻繁に使うのはほとんどの場合インサイトチーム自身だからだ。

記録したいインサイトのレベルについてよく考え、それがインサイトチームの目的やカルチャーと一致していることを確認しよう。もしデータを誰もが使えるよう民主化することがチームの使命であるならば、他の部門の同僚が顧客データや市場データにアクセスできるようにし、独自のダッシュボードを構築して安全な分析を実行できる場を用意する方法に焦点を当ててほしい。しかしインサイトチームが顧客や市場に関するエビデンスに基づく意見を提供することに重点を置いているなら、生データに自由にアクセスできるようにする前に慎重に検討する必要がある。

多くのナレッジマネジメントシステムはプロジェクト単位で動作する。こういったものは事実上、実施されたプロジェクトのリストを記録し、検索するためのシステムだ。それ自体は問題ないが、個々のインサイトではなく、蓄積されたインサイトに基づいて意見を述べたい場合は、その蓄積されたインサイトの要約を提供し、ユーザーに最初に示すための文書が必要になる。単なる個別のインサイトだけでなく、統合されたインサイトを記録し、検索できるようなシステムが必要になってくる。

タグ付けに費やされる時間は決して無駄にならない。最新のナレッジシステムは、以前よりもはるかに優れた検索機能を備えているが、前の章で説明したフレームワーク(顧客セグメント・市場・ブランド・商品・チャネル)を使用して、学習したものを分類して要約するためにできることは、インサイトチームや他の同僚が本当に必要としているものを見つけるのに役立つ。

この本では、インサイトチーム自体のユーザビリティに焦点を当てる。
もしインサイトチームの同僚から一貫した方法でシステムを使用することに賛同してもらえなければ、せっかくシステムに費やした時間とお金をすべて無駄にすることになる。 インサイト部門のリーダーが命令するだけで十分な場合もあるが、ほとんどの企業では、決定をすすめたり阻んだりする行動バイアスについて検討や説得することになる。何はともあれ、使いやすく、魅力的で、社会的に受け入れられ、適切なタイミングで迅速に利用できるシステムを作ろう。

インサイトチームが成功する10番目の秘訣は、ナレッジマネジメントと開発をサポートするためのシステムを導入することである。

重要ポイント:
  1. インサイトチームの目的、役割、働き方は、ナレッジシステムの採用を促進すべきであり、その逆ではない。
  2. 高度なシステムを導入する予算がない場合、より少ない費用で同様の目的を達成できることが多い。
  3. グループ内イントラネットや社内コミュニケーションサイトなど、社内で利用されているプラットフォームを活用する。
  4. チームの目的や仕事の進め方に合ったレベルで個々のインサイトと統合されたインサイトを記録することに集中する。
  5. 大切なのは人だ。システムは、インサイトチームの同僚がどの程度関与しているかによって、役立つか役に立たないかが決まる。

 

第一部「組織にとっての価値を特定する」 では、インサイトチーム自体の目的、仕事の進め方、文化に焦点を当てた。しかし、自社がどのようにしてより多くの価値を生み出すことができるのかを特定しても、誰もそれを実行に移さなければ意味がない。そこで、本書の第2部 第11章では、インサイトの対象と対象を巻き込んで変化を促進する方法に焦点を当てる。

けいさい

2023.1.17掲載