リサーチ部門の存在意義を全うするために
日産自動車株式会社 コーポレート市場情報統括本部
シニア・アドバイザー 高橋 直樹
事業会社の中のリサーチ部門の活動目的は、リサーチを実施することではなく、消費者に関わる知見をもとに、関係部門に新たな行動を起こさせること、あるいは既存の行動をやめさせることである。それなくして存在意義はない。「意思決定に寄与する」といった曖昧な活動目的のもとで、関係部門がすでにやっていることと大して変わらないレコメンをしたり、何らかの提案はしたもののそれについて誰も何も行動を起こさない状態に効果的な手を打たなかったり、そういうことばかりしていては、明日リサーチ部門がなくなっても何も変わらない。つまり存在意義がないのである。
だからこそ、経営層からの費用削減プレッシャーの中で何とか確保した大切な予算を使ってやっと得られた大事なインサイトをネタに、戦略や戦術やそれに関わる優先順位を提言し、それが実行に移されるようにあらゆる手を尽くすのがリサーチ部門の仕事なのである。本書で著者が述べているのは、そうした尽くすべき手段やマインドセット、組織、能力、インフラなどについての本質的な議論である。リサーチ部門にとってこうしたことができるようになることがまずは先決であって、いかにAIなど最新のテクノロジーを活用していても、そうしたことができなければ何の意味もない。
日産自動車のリサーチ部門は、まさにこうしたことができるようになるために様々な取り組みをしてきた。できるようになったと言える自信はないが、試行錯誤してきた取り組みの種類と量についてはいささかの自負はある。ここで著者が主張していることはほぼ全て手をつけたし、これ以外のことも部門のみんなでアイデアを出しながらやってきた。まだまだ道半ばだが、自らの体験を通じて、私は本書の主張に深く共感・同意する。
日本のリサーチ産業がインサイト産業と言えるレベルになかなかならない大きな要因の一つはクライアント側にあるのではないかとかねてから思っている。弊社も含めてクライアントのリサーチ部門における取り組みやリサーチの使われ方が不充分・未成熟であることが、その発注を受けるリサーチ会社における仕事の質の向上を阻んでいるように思えてならない。もしそうだとしたら、本書はクライアント側のリサーチャーにとって非常に啓発的であり、広く読まれるべきだと思う。
それは言いがかりも甚だしい、うちは、あるいはうちのクライアントはちゃんとやっているとお考えだろうか? その通りだ、そこを何とかしないといけないと思われるだろうか?
JMRAという場を借りて議論を加速させる意義が大いにあるテーマだと思う。