開催報告「生成AI活用・情報交流会(第7回)」(2025.04.09)
インターネット調査品質委員会
二瓶 哲也
2025年4月9日、第7回の「生成AI活用・情報交流会」が開催されました。この情報交流会は、インターネット調査品質委員会が主催し、業界の発展のために生成AIに関する情報をオープンに交換し合うことを目的に2024年6月より実施しています。
今回の情報交流会は、参加者同士のディスカッションをメインとして開催しました。ディスカッションは、「AIの身近な活用例」を共有し合うグループと、「リサーチの未来とリサーチャーに求められるスキル」について話し合うグループに分かれて実施しました。
1.前回の情報交流会の報告内容まとめ
前回の情報交流会(2月開催)において、「生成AIを始めとする新たな技術によってリサーチの未来がどのようになってゆくか」について意見交換した座談会の内容共有が行われました。
2.AI関連ニュース
日経リサーチの太田さんから、デモも交えながらAIエージェントの活用例の紹介がありました。このデモを通じて、AIエージェントがリサーチ業務を劇的に効率化できる可能性と共に、AIによってアンケートを自動回答できることなど、AIによってリサーチデータの品質が脅かされる危険性についても指摘されました。
3.ディスカッション
「AIの身近な活用例」と「リサーチの未来とリサーチャーに求められるスキル」の2つのテーマでグループに分かれてディスカッションが行われました。
<グループ1:AIの身近な活用例の共有>
参加者からは、日々の業務における生成AIの具体的な活用事例や、そのメリット・デメリットについて様々な意見が共有されました。
要約・構造化のツールとしての活用
- 発言録やシステム関連の稟議書のたたき台作成に生成AIを利用する事例共有がありました。
- NotebookLMに発言録を入れてマインドマップを作成し、インタビュー実施後のまとめや全体像の理解に活用している事例の共有がありました。マインドマップから各ソースに戻れるため、AI初心者の人でも使いやすいメリットがあることも共有されました。
資料作成の補助ツールとしての活用
スライド自動作成サービス(イルシル)の活用事例について共有がありました。キーワードからスライドを作成してくれるため、資料作成の効率化につながり、ベースの一歩を作るのに便利だというメリットが挙げられました。一方で、見た目がワンパターンになり、作成に利用したツールが分かってしまうという点や、内容が一般的なものになりがちな点がデメリットとして指摘されました。
壁打ち相手としての活用
直接的なアウトプット作成ではなく、AIを壁打ち相手として、ネタ集め、インタビューフローのたたき台、専門用語の調査に活用している事例も共有されました。調査設計や選択肢の仮案作成にAIを活用している事例もありました。
AI活用の課題
AI活用の課題としては、以下のような意見がありました。
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ExcelやPowerPointの操作やレイアウト作成、定量データの扱いは苦手だと感じる
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AIの出力にはシャープさに欠ける点や、情報が多すぎると感じる場合がある
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間違った情報が含まれる可能性もある
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AIからのアウトプットそのままでは使えないため、チェックや修正に時間がかかる場合がある
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用いるモデルによって費用が高額になる場合がある
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<グループ2:リサーチの未来とリサーチャーに求められるスキル>
AIが業界に与える影響について、業界全体に求められる構造変化と、それに伴うリサーチャーやリサーチ会社のあり方について掘り下げた議論が行われました。それぞれのテーマについて出された主な意見を以下にまとめます。
シンセティックデータ※の活用と課題
※シンセティックデータ:https://www.jmra-net.or.jp/activities/trend/international/20250121.html
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パッケージデザイン評価やコンセプト評価など、分野を絞った活用可能性はあり得る。
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ペルソナのように語りかけて返事をもらえれば真実に見えるため、それで成立してしまう世界もあるのではないか。そうするとリサーチ会社にとっての脅威になり得る
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虚構のデータと何が違うのか?AIによる生成のブラックボックス感(透明性の欠如)がある。定義や使い方が分かりにくい。
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AIは過去データにもとづいているため、既存製品の評価には活用できそうだが、全く新しいものや予期しない事態には対応できないのではないか
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AIは情緒的な価値の評価が難しいという調査報告もある
リサーチャーの進化
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プログラミングスキルよりも、AIにいかに的確な指示を出せるかがより重要になる
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出力されたもの価値を判断し、評価する力(データの確からしさを見極め、クライアントに自信を持って伝えられるか)は普遍的なリサーチャーの価値だと考える
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リサーチスキルはマーケター兼リサーチャーなど「+α」があってこそ生きるサブスキルである
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AIが出てきてもリサーチャーがやることは変わらない、AIは顧客がやりたいことを整理し、解決に向かうための「武器の一つ」が増えただけ
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AI時代においてリサーチ会社に求められる付加価値は、AIにはできない「集客と接客」のプロセス、すなわちバイアスのない、実際の生活者のリアルなデータ(アスキングデータ)を適切に収集する能力である
リサーチ会社の役割の変化
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AIを壁打ち相手として顧客自身が活用する可能性が高まり、AIの優秀な聞き返し機能などによりリサーチャーの仕事が奪われる懸念もある
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ログデータや観測データと異なり、アンケートなどで得られる「人の意識や考え」はリサーチ会社でしか取れないデータであり、その価値を高めることが重要
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行動データ中心のビッグデータは変化に対応しにくいが、意識データは変化への回答を出すのに役立つ
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今回の情報交流会では、生成AIの日々の業務における具体的な活用事例や、リサーチ業界の未来とリサーチャーが今後身につけるべきスキルについて活発な意見交換が行われました。AIは日々の業務の効率化に大きく貢献する一方で、その利用にはまだ多くの課題や人間の介在が必要な部分があることや、AIエージェントによるアンケートの自動回答といったリスクについても指摘がありました。また、シンセティックデータのような新しい技術活用に伴って「アスキングデータ」の価値が改めて重要となることが議論され、参加者にとって有益な情報共有の場となりました。
2025.5.20掲載