開催報告「AI活用・情報交流会(第12回)」(2026.07.09)
インターネット調査品質委員会
住吉智哉
2026年7月9日、インターネット調査品質委員会の主催による第12回の「AI活用・情報交流会」が開催されました。今回の情報交流会では、ESOMAR APAC 2026での参加・発表報告と最新AIエージェントによる業務自動化、リサーチの全工程を支援する「Dataspace」の紹介という3つのテーマについて話題提供をいただきました。
1. ESOMAR APAC 2026参加・発表報告
株式会社インテージの二瓶氏より、東京で開催されたESOMAR APAC 2026の参加報告と、二瓶氏・岸田氏による発表内容をご紹介いただきました。5月27-29日の3日間で開催された同カンファレンスには40カ国から300人を超える参加者が集まり、AIを直接扱う発表だけでなく、AIの普及を前提に、リサーチ手法やリサーチャーの役割を問い直す発表が多く見られました。
発表内容 ~AI時代におけるリサーチインサイトと価値の再構築~
同カンファレンスでの発表は、これまでのインターネット調査品質委員会の活動をベースとし、AI活用によってリサーチの価値を拡張する「攻め」と、データ品質保護を重視する「守り」という2つの観点から、日本の取り組みを紹介しました。
「AI活用(攻め)」の可能性 ~リサーチサービスの変化とリサーチャーの役割 ~
「攻め」の事例として、インタビュー後の作業工程を効率化する「toitta」(株式会社はてな)、AIがインタビュアーとなって多数の対象者へ聞き取りを行う「qork」(株式会社Quest Research、現在は「コルクインタビュー」に名称変更)、AIペルソナが回答者となる「ペルソナインサイト」(大日本印刷株式会社)など、本情報交流会やJMRAカンファレンスで紹介されてきたサービスを取り上げました。
これらの変化は、(1)既存業務の効率化、(2)従来は難しかった規模や方法へのリサーチの拡張、(3)実査や回答者の一部をAIに置き換える段階、の3つに整理できます。
このような状況から、AI時代のリサーチャーには、「顧客課題を”答えるべき問い”へ変換する力」 「AIの出力からシグナルとノイズを見分ける力」 「得られた洞察を具体的な意思決定やアクションへつなげる力」が求められます。また、AIペルソナは迅速で一貫した回答を返す反面、平均的な回答になりやすいという課題があります。実在する生活者の矛盾、感情の揺れ、予想外の発言といった個別性は、人間を対象とする調査だからこそ得られる価値です。
「データ品質保護(守り)」の重要性 ~ インターネット調査サステナブル宣言の背景 ~
発表では、日本の調査パネルは各社が不正回答や不適切な回答の検知・除外に取り組んできたことで、海外と比較して高い品質を維持していることが紹介されました。
一方、その状況を将来にわたって維持するうえでは、若年層のモニター離れが深刻な課題として示されました。その背景として、低い謝礼、対象条件に合わなければ謝礼を得られないスクリーニング調査の繰り返し、長すぎる質問、スマートフォンで回答しにくい質問形式など、回答者にとっての負担が挙げられました。
こうした状況を改善するため、インターネット調査品質委員会では、「インターネット調査サステナブル宣言」の検討を進めています。回答者の体験を守り、過度に長いスクリーニング調査や負担の大きい質問形式を見直すことで、生活者から持続的に調査への協力を得られる環境を整えることを目指しています。質の高いデータを守るとともに、調査を支える回答者との良好な関係を将来にわたって維持することが、リサーチ業界全体にとって重要であると共有されました。
2. AIエージェントによるリサーチ業務の変化
株式会社日経リサーチの太田氏より、最新のAIモデルとAIエージェントを実際のリサーチ業務に活用した所感をご紹介いただきました。最新のAIは、質問への回答にとどまらず、利用者が認識していない論点や前提の見直しまで提案できるようになっており、仮説検討の壁打ち相手としての価値も高まっています。
リサーチプロセス改善の検証
検証では、大規模なローデータ、調査背景、事前仮説を与えると、AIがパソコン上で数時間にわたり分析を継続しました。複数の分析軸を試行しながら仮説の採用・棄却を判断し、その根拠となる数値まで整理して提示したとのことです。仮説が明確な分析領域では、人間が自ら集計する必要性が大きく低下する可能性が示されました。
AIへの指示も、単発のプロンプトを工夫する段階から、どの情報を確認し、何を検証し、その結果を踏まえて次に何を行うかという業務プロセスそのものを設計する段階へ移行しています。こうした業務プロセスをAIへ委ねる「ループエンジニアリング」が、AIエージェント活用の重要な要素になると紹介されました。
AI時代に変化するリサーチャーの役割
一方で、AIへ渡す情報の質は顧客ヒアリングの質に大きく左右されます。AIが作成した調査票と担当者の設計思想をどう調整するか、また顧客へ納品できる品質のPowerPointへどう仕上げるかといった課題も残されています。
さらに、顧客の現場に入り込み、AIや自社プロダクトを業務へ組み込み、定着まで支援するFDE(Forward Deployed Engineer)という役割も紹介されました。生成AIによって「調査の民主化」が進む中、調査会社には案件を受注して結果を納品するだけでなく、顧客課題を継続的に理解し、AIとリサーチを組み合わせながら業務や意思決定を支援するパートナーへの転換が求められています。
3. リサーチプラットフォーム「Dataspace」の紹介
Opensurvey様より、AIネイティブなリサーチプラットフォーム「Dataspace」をご紹介いただきました。同社は韓国でモバイルリサーチとリサーチプラットフォームを展開し、これまでに3,000社以上、25,000件以上のプロジェクトを支援しています。Dataspaceは、調査企画、設計、質問票作成、データ収集、分析、報告までを一つのプラットフォーム上で支援するツールです。
AIが支援するリサーチ実務の一気通貫化
利用者が調査目的を伝えると、AIリサーチャーが背景、答えるべき問い、対象者条件、調査手法、意思決定や成功要件を整理した企画書を生成します。続いて調査票を設計し、選択肢、スクリーニング条件、分岐ロジックを含むWeb調査画面まで自動構築します。分析段階では、自然言語による指示からデータの前処理、クロス集計、比較、可視化を実行し、グラフ付きレポートと推奨アクションまで提示します。
AIが実現する分析支援と新たなリサーチアプローチ
デモンストレーションでは、韓国、日本、米国の生成AI利用データから国別の特徴を抽出し、クロス集計、グラフ作成、レポート出力までを実演しました。また、日本の美容消費者データからセグメントを作成し、そのデータに基づく合成消費者へのインタビューも紹介されました。定量データからセグメントを発見し、合成消費者との対話を通じて理解を深め、示唆やネクストステップまで導き出す一連のプロセスを、同じプラットフォーム上で完結できます。
Dataspaceの特長は、汎用AIを単独で利用するのではなく、過去の調査データ、既存のリサーチワークフロー、経験豊富なリサーチャーの知見を組み合わせている点です。AIは回答者ベースや設問形式を考慮し、順位回答、評価尺度、セグメント差、時系列変化などをリサーチ実務の基準に沿って解釈します。そのため、利用者が分析の前提やルールを毎回細かく指示する負担を軽減できます。
まとめ
今回の情報交流会では、AIが既存業務を効率化する段階から、調査の企画、設計、実査、分析、報告を一体的に担う段階へ移っていることが示されました。AIエージェントやツールによって、リサーチを実施するスピードと実施可能な範囲は大きく拡がります。
一方、AIが多くの作業を担うほど、顧客の課題を正しい問いへ変換する力、AIの結果を見極める力、文化や生活者の個別性を理解する力、得られた洞察を意思決定へつなげる力の重要性が高まります。また、AIの基盤となる生活者の声を守るため、回答体験と調査パネルの持続可能性にも向き合わなければなりません。
AIを使いこなしながら、リサーチャーとデータの価値をどのように維持し、発展させていくのか。今後もAIとの共創によってリサーチの未来を切り拓くために、リサーチャーが発揮すべき価値を皆様と一緒に考えていきたいと思います。引き続き、リサーチャー同士の有用な情報交流・ディスカッションの場として定期的に開催していきますので、次回以降もご期待ください。
2026.08.18掲載