開催報告「AI活用・情報交流会(第11回)」(2026.04.15)
インターネット調査品質委員会
委員長 二瓶哲也
2026年4月15日、インターネット調査品質委員会の主催による第11回の「AI活用・情報交流会」が開催されました。今回の情報交流会では、3社の登壇者から、AIを活用した最新のリサーチサービスについて話題提供をいただきました。株式会社はてな様からはインタビュー分析ツール「toitta」、大日本印刷株式会社様からはAIペルソナのサービス「ペルソナインサイト」、curioph株式会社様からはAIによる定性インタビュー自動化サービス「POLLS」について、それぞれご紹介いただきました。
1. toitta新機能の紹介
株式会社はてな様より、インタビュー分析ツール「toitta」の新機能についてご紹介いただきました。toittaは、インタビューの録画・録音データから話者分離・書き起こし・切片化(発話の構造化)までを自動で行うサービスで、これまで人手で行っていた分析業務を大幅に効率化するツールです。
テキストインポート機能 ―― 既存テキストデータの活用
新機能として、テキストインポート機能が公開されました。セキュリティポリシー上、動画や音声をAIツールにアップロードできない、あるいは録画データの保管自体が禁止されている調査案件においても、翻訳会社による逐語録やWeb会議ツールの自動書き起こしテキストをアップロードすれば、toittaの切片化・自動グルーピング・横断分析機能をそのまま利用できます。これにより、toittaを活用できる案件の幅が大きく拡がりました。
MCPサーバー連携 ―― 汎用AIから直接toittaのデータを参照
近日公開予定のMCPサーバー連携機能により、ClaudeなどのAIから直接toittaのデータを参照しながら会話することが可能になります。デモでは、toittaに蓄積されたインタビューデータをもとに、AIに指示を出すだけで、5分弱で実際の発話に基づいたペルソナレポートやジャーニーマップが生成される様子が示されました。toitta上で発話があらかじめ構造化されており、かつ常に元の録画・録音に立ち戻れる設計のため、AIによる出力に対しても一次情報に基づいた検証が可能です。これにより、汎用AIだけでは得られない「説得力のあるアウトプット」を効率的に作成でき、リサーチャーの分析業務をさらに効率化することが期待されます。
2. ペルソナインサイト利用者の感想 ―― トライアル実施結果から見えた価値と課題
大日本印刷株式会社(DNP)様より、生成AIマーケティングサービス「ペルソナインサイト」のトライアル実施結果についてご紹介いただきました。ペルソナインサイトは、生活者の言葉にできない本音をAIペルソナとの対話を通じて言語化することを目指したサービスです。今回、複数のJMRA会員企業のご協力のもと、2026年1月から2月にかけてβ版のトライアルを実施した結果が共有されました。
評価された価値 ―― アクセス困難層との対話と提案品質の向上
トライアル利用者からは、時間、コスト削減や付加価値性の観点で高い評価が得られました。具体的には、90代の高齢者や幼児といった普段アクセスが難しい層との対話が可能なこと、人間が相手だと聞きにくいセンシティブな質問もAI相手なら実施できること、論点をシャープにしクライアントへの提案の質を上げる「思考の支援」「壁打ち相手」として機能することなどが挙げられました。
今後の課題 ―― 「平均」ではなく「尖り」のある回答へ
他方で、「平均ではなく『尖り』が欲しい」という声で、リアルで尖った『N=1』の個性が求められるという指摘もありました。「『納得感』止まりでは不十分、ベテランも驚く『インサイト』が欲しい」という声、「『人間らしさ』=矛盾・葛藤・揺らぎを再現してほしい」という声です。これらに対しては、ペルソナの質の向上や、属性ではなく価値観・状況でペルソナを選べる機能、複数ペルソナによるグループ対話機能などを今後アップグレードしていくとの方針が共有されました。
3. POLLS ―― AIによるインタビュー自動化と「クロスインサイト」構想
curioph株式会社様より、AIによる定性インタビュー自動化サービス「POLLS」についてご紹介いただきました。POLLSは、AIが自動でインタビューを実施し、生活者から深い声を引き出すサービスで、部門横断で声を統合する「クロスインサイト」という構想のもとに展開されています。
背景 ―― 部門ごとに分断された「声」を統合する
POLLSの背景には、各部門で集めた声(マーケティングの調査データ、CSの問い合わせ、セールスの商談記録、人事のアンケート等)が組織内で分断され、横断的な因果が見えないという問題意識があります。「何を明らかにすれば経営判断が変わるか」という問いを先に経営層と合意したうえで、複数部門の声を同じ設計思想で収集・統合し、部門をまたいだ因果を可視化する「クロスインサイト」というアプローチが提示されました。
AIによるチャットインタビューのデモ
実際の管理画面を用いたデモでは、POLLSが「調査設計エンジン」「インタビュー設計エンジン」「レポーティングエンジン」という3つのエンジンを組み合わせて構成されていることが紹介されました。管理画面では、調査の目的やサービスについて成し遂げたいことを記入していくだけで、調査設計が進められる仕組みになっています。また、「深掘る回数」や「深掘りのキーワード」を事前に設定しておくことで、回答者からそのキーワードが出てきた場合に追加で深掘っていく、といった動的なインタビュー設計が可能となります。回答データについては、「自分で気づかなかった気持ちに気づけた」「従来では得られなかった深い回答が得られた」といった声が寄せられており、クライアントからの満足度も高いことが共有されました。
深い声を引き出すための設計思想
POLLSが深い声を取れる理由として、3つの設計思想が紹介されました。「評価しない(Non-Evaluative Listening)」――肯定的な評価が相手の言葉を飾らせるため、評価を排除し文脈だけを受け取る設計。「遠回りで近づく(Indirect Path Design)」――直接質問は防衛を起動させるため、ゴールから逆算して回答者が自然にたどり着く入口を設計するアプローチ。「気づかせる(Narrative Insight)」――語る行為が認識を作るという理論に基づき、「自分でも気づいていなかったことに気づいた」という体験を引き出す設計です。
AI時代に残るリサーチャーの価値
AIエージェントの普及により、大規模インタビューの同時並行実施、文字起こし・翻訳のリアルタイム処理、レポートのドラフト生成などが自動化されつつあります。こうした中でリサーチャーに残る本質的な価値として、経営課題を「答えるべき問い」に変換する力、意思決定と声を接続する調査設計、部門横断の因果を読む視点、クライアントと問いを共創する対話力が挙げられ、「問いを設計できるリサーチャー」だけがAI時代に価値を持ち続けるとのメッセージが共有されました。
まとめ
今回の情報交流会では、AIを活用したリサーチサービスとして、toitta(はてな様)、ペルソナインサイト(DNP様)、POLLS(curioph様)という3つのサービスをご紹介いただきました。toittaは「インタビュー分析業務の効率化」を担い、AIによる分析工程の自動化につながるツールです。ペルソナインサイトは「AIが回答者・人間が聞き手」、POLLSは「AIが聞き手・人間が回答者」と、AIと人間の役割が逆になる対照的なアプローチのサービスです。このようなサービスが組み合わさっていくことで、AIが担うリサーチの範囲は必然的に拡がっていきます。AIが「分析する」「聞く」「答える」を担うようになる時代だからこそ、リサーチャーには問いを設計し、顧客と生活者の声を接続するという本質的な役割が改めて問い直されています。AIとの共創によってリサーチの未来を切り拓くために、今後もリサーチャーが発揮できる価値をみなさんと一緒に考えていきたいと思います。引き続き、リサーチャー同士の有用な情報交流・ディスカッションの場として、定期的に開催をしていきますので、次回以降もご期待ください。
2025.5.19掲載