開催報告:レイ・ポインター 生成AIリサーチ活用最前線セミナー(2024.06.04)
リサーチ・イノベーション委員会
岸田 典子
ESOMARの前会長で、リサーチ・インサイトに特化した生成AIの活用について世界中のリサーチャー向けに研修を行っている、レイ・ポインター氏の講座が6月4日に対面式で行われました。
世の中には、生成AIの講座は数多くありますが、絶えず進化し続ける生成AIのリサーチにおける活用法を、リサーチおよび生成AI双方の最前線にいるレイ・ポインター本人から直接聞く機会はなかなか得られないものです。
当日は、講師は英語で説明し、AIの同時翻訳によるに日本語字幕も活用しながら、吉田朋子さんによる日本語サポートで進行しました。AI活用レベル、リサーチ経験、英語レベルもさまざまな参加者でしたが、みなさんそれぞれに、現時点での生成AIの全体像、業務での活用のメリット、今後の活用イメージをつかむことができたのではないかと思います。
盛りだくさんな講義内容の中からほんの一部ですが、ご紹介します。
午前の部では、日々進化する生成AIの主要ツールのそれぞれにつき、何が向いていて何ができないのかといった特徴、チェック方法など、AIツールを使いこなす上での基礎知識や概念の説明を交えつつ、その全体像を把握していきました。
-
Deep Research:プロジェクト開始時により多くの背景情報を得るために、すべてのリサーチャーはDeep Researchを使うべき。
-
Canvas: 共同作業スペース(ChatGPT Canvas、Gemini Canvas、Copilot Pages)の活用
-
Agents: Agents(Custom GPTsやCopilot Agentなど)を使用して、プロジェクトやクライアント独自のニーズや仕様に合わせた調査票を作成、またはチェックをする。
レイさんが作成した架空の会社の仕様にあった調査票を、Agentを活用して練り上げていく活用法がわかりやすく例示されました。
- RAG(Retrieval Augmented Generation検索拡張生成): あらかじめ設定した信頼できる情報源から情報を検索する方法。レイさん自身の著作やブログを情報源とし、リサーチに関する質問をすれば、なんでも答えてくれる「Virtual Ray」で、RAGの具体的な紹介とその作成方法が示されました。
- Copilot:Office365との統合、社内ファイル、メール、チャット、SharePointのコンテンツへのアクセスなど、企業特有のニーズに適した効率的な使い方ができ、チームで仕事をするならばCopilotはぜひ使うべき。
- GoogleのAI製品群
- Gemini、Colab、Google AI Studio の活用法
-
Notebook LM マインドマップやポッドキャストなどさまざまな活用が広がる。
レイさんが、Notebook LMを使って、午後の部の講義資料から日本語のポッドキャストを作成し、2人の人物の掛け合いでセミナー内容を紹介する音声を披露。
-
Vibeコーディングの活用例:自然言語でリクエストを投げれば、Claudeでコードを取得し、Kaggle.comのノートブックで実行することができる
それ以外の生成AIについても、Anthropic Claude、Perplexity、Llama、DeepSeekをはじめ、画像の活用についても幅広く紹介されました。
レイさんは、「数あるプラットフォームのなかでどれが最も優れているか?は、毎日のように変化します。だから、プラットフォームを選ぶのは、どれが最も高性能かではなく、自分たちのワークフローに合わせて選んでいくべきです」と言います。
例えば、もともとの作業工程に適合するかどうか、入力、出力がどのようにできるか、利用したいファイル形式が読み取れるか、などが重要なポイントです。
.
午後の部は、日々の調査の業務(リサーチ設計、データ収集、定量分析、定性分析)の中で、生成AIをどのように活用できるか、プロンプトとアウトプットの例をあげつつ、そこから参加者自身が活用や応用のイメージを描けるように進めていきました。
たとえば、
-
適切な調査企画、設計、分析手法にたどりつくまでの生成AIとのやりとり(プロンプト)例
-
企画書や調査票、ディスカッションガイドなどの作成とブラッシュアップ法
-
ハウススタイル(その会社独自の仕様)を学習させ、それに基づいて修正する方法
-
LLMを活用したサードパーティのサービス例(対話型データ収集、不正検出、ソーシャルリスニング、AIモデレーションによる情報収集などなど)
-
LLM内でコード実行、数表作成、有意差検定、さらに、相関分析、回帰分析、シャープレー値などの例
-
リサーチャーによる将来予測についての自由回答の分析例
-
データクリーニング法 重複や個人情報の削除
-
感情分析や高度な定性分析手法を使った分析例とその活用の秘訣
-
AIによる定性情報のまとめと、ローデータ(発言例)の抽出による妥当性検証の方法
-
合成データ(Synthetic Data)、拡張合成データ(Augmented Synthetic Data)、ペルソナ、デジタルツイン
-
レポート作成(グラフの指示例)
-
クライアント向けインタラクティブレポート
などなど、最新の使い方の数々が実例を盛り込んで紹介されるという、大変盛りだくさんな内容でした。
参加者から「新人のリサーチャーが学ぶべきものとして、マーケティングの知識と生成AIについてどちらかを選ぶとしたら、どちらですか」という質問がありましたが、それに対して、レイさんが「生成AIだ」と即答されたのが印象に残りました。
理由は、生成AIの活用の方法を学ぶことにより、他の分野の知識も広げていけるからとのことでした。
今回のセミナーの学びを、みなさんの業務に役立てていただけますよう、講師、スタッフ一同願っています。