2025年11月19 日に、西日本コラボレーション研究会で年に一度実施しております「周年イベント」を開催いたしました。例年、講師の方をお招きしていますが、今回はJMRA創立50周年を節目に開催された「JMRA アニュアル・カンファレンス 2025」のテーマのうち、会員の皆さまよりご要望の多かった「AIはリサーチをどう変えるのか?技術の最前線から未来を読み解く」の動画を視聴いたしました。リアル13 名、オンライン25名の計38名にご参加いただきました。
■スピーカー:
株式会社インテージ デジタル
戦略本部データテクノロジー部部長
二瓶哲也氏
株式会社日経リサーチ
経営企画室R&Dグループ部長補佐
太田祐介氏
クアルトリクス合同会社
ソリューションエンジニアディレクター
中嶋祐一氏
株式会社QuestResearch
代表取締役CEO
南健太氏
■前半パート:二瓶様より「リサーチ現場におけるAI活用」について
ディスカッションに先立ち、二瓶氏からリサーチ現場でAIがどのように活用されつつあるのか紹介がありました。企画・設計から実査、分析や報告書作成に至るまで、AIは主に業務を効率化する役割を担っているものの、最終的なアウトプットの質を保つためには、やはり人間の判断や工夫が欠かせないという点が強調されました。この点はリサーチ会社の我々が日々感じていることでもあると思います。
また、具体的には発言録の自動作成やAIチャット、AIペルソナなど、各社がさまざまなAIサービスの開発を進めており、リサーチプロセスの効率化がより一層進んでいる状況が紹介されました。さらにAIが 「データそのもの」を作り出す技術も登場しており、将来的には実査が不要になったり、調査の自動化がより進む可能性にも触れられました。特に、AIペルソナなどで使われる合成データ(Synthetic Data:シンセティックデータ)は、アルゴリズムで人工的に作られるデータで、元のデータを補ったり拡張したりする役割があります。ただし、一方で「生成されたデータをどこまで信頼できるのか」という課題があり、慎重な扱いが必要との指摘もあり、非常に印象に残りました。
■後半:ディスカッション。いくつかのテーマについて行われました。
- AIはリサーチをどう変えるのか?
調査票の作成から集計、報告書作成までAIが担える作業が増えることで、調査の納品スピードが大幅に短縮されるという点が挙げられました。さらに、これまで年1回など限られていた調査の頻度も、極端な話 「毎日でも調査やデータ・示唆が提供できる」可能性があるとの意見も。
- 開発スピードについて
AIのサービス開発は小規模チームでもスピード感を持って進められる一方、大企業では導入決裁に時間がかかるというギャップも議論されました。また、AIには人と違って、改善要望や批判が比較的言いやすいといったメリットもあるようです。しかしながら、フリーコメントの要約や対応策の提案といった高度なアウトプットは、意思決定に使えるレベルの品質が求められるため、慎重な検証が必要との警鐘もありました。
- 合成データ(シンセティックデータ)について
シンセティックデータについては、7割以上が関心を持っているというニーズの高さが紹介されました。一方で、本当に信頼できるデータなのか、どのように質問すれば適切な回答が得られるのかなど、検証すべき点も多く残されているようです。北米やヨーロッパでは導入が進んでおり、背景には個人情報をあまり提供したくない文化的事情もあるのでは、という見方も共有されました。一方で、日本やアジアではこれから広がる段階だとされています。
- AIによるインサイト導出、及び、AIエージェントについて
AIを使えば何でもできるわけではなく、どのデータをどのように入力し、どんなアウトプットを期待するのか を人間がしっかり設計することが重要だという意見が出されました。AI活用には、目的の明確化が欠かせないという示唆です。
- リサーチャーの役割の進化
最後に、今後リサーチャーに求められるのは、リサーチ+専門領域の知識といった「掛け合わせのスキル」。例えば特定の業界に詳しいリサーチャーなど、課題解決やコンサルティングのようなより価値の出せる人材が求められる。また、これまで以上に「深いインサイトを提供したり、ビジネス課題の解決に寄り添う役割」が期待されるようになるという見通しが示されるなど、示唆に富んだお話をいただきました。
今回、準備等いただきました事務局の皆さま、西日本コラボレーション研究会及びJMRA 会員の皆さま、誠にありがとうございました。終了後には、交流を兼ねた懇親会を開催しました(15名参加)。