ESOMAR GMR日本アンバサダー
一ノ瀬 裕幸
2025年11月、Esomarから『Global Prices Study (国際価格調査) 2025』が発表されました。この調査は2年ごとに世界の市場調査価格の動向を追跡しているもので、今回は105カ国、426社からの見積データを集計しています。日本からご協力いただいた皆さまには、厚く御礼申し上げます。
今回の調査結果のポイントは、(1)世界的にインフレ率を上回る価格上昇(特に定量調査で)、(2)インサイト専門職の報酬の上昇、(3)AIの導入によって効率は向上しているが、コスト削減には直結していない、(4)日本市場は引き続き“高価格帯グループ”に属している、といった点に集約されます。海外調査を手がける会員社の皆さんには、ベンチマーク指標として参考にしていただけると幸いです。
なお、中期的なトレンドデータも可能な範囲で掲載されていますが、調査年によって為替変動の影響が大きかったり、回収サンプル数に大きなバラツキがあったりするため、厳密な経年比較は困難です。以下のコメントは一部を除き、2023年(前回)→ 2025年版データからの考察となっていることをあらかじめご了承ください。また、日本からのサンプル数にも限りがあり、細部にわたる分析は困難であることもお断りをしておきます。
1.グローバルな全体動向:
価格は総じて上昇、特に定量調査で顕著
グローバルトレンドとして、2023~2025年の世界インフレ率累計(約11%)を上回る価格上昇が、多くの定量プロジェクトで発生しています。
特に、人(リサーチャーやオペレーター)の関与を必要とするF2F(対面調査)とCATI(電話調査)については、史上最高価格を更新しました。対して、オンライン調査の価格も上昇はしましたが、依然として最安の手法となっています。
価格上昇の主な要因は、次のように整理されています。
- 運営コストの上昇(人件費・交通費・設備費 ・・・ 総じてインフレの影響)
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調査参加率低下への対応コスト
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データ品質確保への投資(アクセスパネル維持、人による検証、AI等技術基盤への投資)
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通貨価値の変動(米ドル安 → 欧州圏の調査価格はUSD換算で上昇)
2.プロジェクト・手法別の価格動向
(主要プロジェクトについて)
個別プロジェクト別の価格データについては調査年によるバラツキが大きく、評価の難しい面があります。詳しくはレポート本文をご参照ください。一例として、以下に最も一般的と思われるU&A調査の「F2F、CATI、Online、主要8カ国市場(世界市場の約8割を占める、米・英・印・中・豪・仏・独・日)に絞ったオンライン」の中央値に関するトレンドを掲載しました。全体として2025年はすべての数値が高騰していることがわかります。ただし、米ドル換算時の為替相場の影響が大きいことを考慮してください。


もう1つ、グループインタビュー(フォーカスグループ)4グループの価格についても見ておきたいと思います。例年、こちらは比較的安定していまして、コスト構造に大きな変化がないことが推測できるのですが、2025年は主要8カ国市場における価格がF2F、Onlineともに下落していることが気にかかります。


そのほか、B2B調査の価格がほぼ一貫して上昇していることが特筆されています。主な要因として、もともとサンプルの希少性から対象選定コストが高いこと、近年は特にその適格性検証に要するコストが高騰している、との指摘がありました。

3.インサイト専門職の報酬(日給単価)
2023→ 2025年で、リサーチャーの日給単価は「17~32%上昇した」とされています。
リサーチャーの階層は「Junior、Mid-level、Senior、Marketing Scientist」の4つに区分されていますが、全階層で上昇をみています。

4.AIの影響:効率は向上、コスト削減には直結せず

今回の調査では、AIが調査プロジェクトのコストと効率性に与える影響についても聞いています。すべての調査会社がAI活用に踏み込んでいるわけではないためか、回答者数(n=222)がかなり減少していますが、示唆を得ることは可能と思われます。結果は、
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84% が「効率向上」を実感しているものの、
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73% が「コストはほぼ変わらない」となっています。
その理由として、前者は「分析作業が高速化し、効率改善につながった」というものですが、その一方で「新ツール導入・検証のコスト」がかかり、「人による品質チェックの必要性が残る」ため、価格には反映されにくいことが後者の肌感覚につながっているようです。
5.日本市場について
日本は世界主要市場8カ国の1つとして扱われ、安定した大規模市場とみなされています(ちなみに、グローバル市場に占めるシェアは3.2%)。ただし、CATIは実施数がきわめて少ないなど、市場特性から単純な国別比較は困難です。ここでは、十分なサンプル数を満たしたと思われる手法への記述の中から、いくつかのコメントを拾うことにとどめたいと思います。
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日本の価格水準は総じて「高価格帯ゾーン」に区分される
- 特にF2F(対面調査)の価格は世界で最も高い
- 品質要求基準が高い(=「高品質」である一方、「品質管理コスト」が高い)
- CATIは衰退し、オンライン手法が標準となっている
上記のような傾向は、グローバルなクライアントの従来の「常識」を裏付けたものとも言えると思われます。
実際の価格見積場面ではケースごとにさまざまな要因が加われることになると思いますが、今回の調査結果が一定の目安を提供する一助となることを期待しています。
レポートのダウンロードはこちら(外部サイト:Esomar)から: 有料(Esomar会員は無料)
https://esomar.org/publications/global-prices-study-2025
以上
2025.12.16掲載