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AI活用_情報交流会(第10回 2月度)(2026.02.18)開催報告

インターネット調査品質委員会
二瓶 哲也


2026年2月18日、インターネット調査品質委員会の主催による第10回の「AI活用・情報交流会」が開催されました。今回の情報交流会では、日経リサーチの太田氏から、AIエージェント活用の最新動向と、株式会社HARVEST様からは、AIの回答品質を向上させるための「データ培養(合成データ)」に関する技術について紹介いただきました。

1.AIエージェント:最近の動向と所感

インターネット調査品質委員会の太田氏(日経リサーチ)より、「AIエージェント」の最新動向とリサーチ業務に与える影響について、話題提供していただきました。直近での具体例として、Claude DesktopのCoworkを用いることで、AI活用の幅が大きく拡がる可能性を紹介いただきました。以下、太田氏からの話題提供の内容をまとめます。

AIの存在の進化:チャット(口)から実行部隊(手足)へ

これまでのAI活用は「チャット」が主であり、相談相手としてのAIに問いかけ、得られたテキストを人間が手作業で処理するという、ブラウザの中に閉じた体験に過ぎませんでした。しかし、Claude DesktopのCoworkなど、直近で登場してきたAIエージェントは、ツール操作やPC全体の制御を担う能力を備えています。これにより、AIが自らブラウザの外に飛び出し、GmailやSlack、Notion、Googleドライブといった外部サービスと直接連携し、ファイルを参照・更新することが可能になります。従来、AI活用のボトルネックとなっていたのは、「コピペ」や「手入力」という、人間が行わなければならなかった情報の移動作業でした。この障壁が取り払われ、AIが直接ファイルにアクセスして作業を完結できるようになります。こうしたAIの存在の進化によって、人間の役割は単純作業の反復から、より高度な意思決定へとシフトします。

リサーチャーの生存戦略

AIエージェントが普及する時代において、リサーチャーが生き残るための戦略は、単なる時短スキルの習得ではなく、自身の「脳」を外部化し、「ポータブルな脳」として蓄積していくことにあるかもしれません。AIに渡す手順書を「Skill(スキル)」としてテキストファイルで管理し、それをAIエージェントに読み込ませることで、過去の知見やボツになった案さえも、いつでも他案件に適用可能な「積み上げ資産」へと変えることができます。これは、特定のプロジェクトが終われば消えてしまう一時的な記憶に頼るのではなく、フォルダ単位でプロジェクトとスキルを管理し、自分専用のAIを育てていくプロセスです。さらに、複数の専門特化したエージェントを協働させ、議論を通じて結論を出す「エージェントチーム(合議)」という概念も重要です。1つのAIに依存すると、その回答は偏ったり浅くなったりするリスクがありますが、複数のエージェントが互いの成果をチェックし合う「合議」のプロセスを経ることで、人間が見落としがちな集計ミスや論理の矛盾に気づく確率が劇的に向上します。これは、AIによる「疑似的なピアレビュー(査読)」が可能になることを意味し、リサーチの品質管理にも役立てることができます。このようにAIが「チーム」として自律的に機能するようになると、リサーチャーの役割は、クライアントの真の課題を見抜き、AIエンジンを駆動させるための「実現する意志」を持つことに集約されていきます。

2. AIの品質を支えるデータ培養・データリファイニング技術の紹介

株式会社HARVESTの菅野様より、データ培養・データリファイニング技術に関するご紹介が行われました。ご紹介いただいた内容を以下にまとめます。

AIの品質

AIの役割は単なる「データの整理係」から意味を読み解く「洞察のパートナー」へと進化しています。この進化によって、よりAIの品質の重要性が増してきています。AIの品質については、「AIの成果 = モデル + 指示(プロンプト) + データ」という考え方ができます。「モデル」は企業間の開発競争が進む中で性能が向上していくのは必然ですし、「指示(プロンプト)」は、指示の出し方が共有されていくことでコモディティ化しています。しかしながら、「データ」については、データの質が悪ければ、結果は決して良くはなりません。つまり、ツールやテクニックだけでは差別化が困難になり、最終的なアウトプットの質を左右する要素は「データの質」に集約されてきます。

ハルシネーションの問題

AIに与えるデータの粒度が粗かったり、回答に欠損があったりすると、AIは「些細な数値の差を過大な意味がある違いだと勘違いする」「前提情報の欠如により論理が破綻する」「同じ質問に対して毎回違う答えを返す」「存在しないストーリを過剰に推測してしまう」といった不安定な挙動を示します。AIがどれほど高度な解釈能力を持っていても、その根拠となるデータに密度と整合性が欠けていれば、信頼に足る洞察を得ることはできません。データの質を極限まで高め、AIが迷わず解釈できる環境を整えることが、AI時代の最大の勝負所となっているのです。

データ培養(合成データ)とリファイニング

高品質なデータが必要とされる一方で、現実のリサーチ現場には、予算や期間の制約、あるいは調査対象者の物理的な限界といった「数の天井」が存在します。また、分析を高度化しようとしてデータを細分化すればするほど、一つのセルあたりのサンプル数が減少し、データの密度が薄くなるという「分析要求のジレンマ」に陥ります。この構造的な課題を解決するためのアプローチが、「データ培養(合成データ)」です。合成データとは、実データの統計的特性を保ちながら人工的に生成されたデータであり、これを活用することで、分析に必要なデータの「密度」と「整合性」を人工的に補強することが可能になります。特にアンケートデータにおいては、「分岐」や「論理制御」といった複雑なルールが存在するため、一般的な合成データの生成ロジックで単にデータを増やすだけでは不十分です。HARVEST社では、「分岐」や「論理制御」も考慮した調査専用のアプローチに基づき、元データの統計的特徴を正確に捉えつつ、独自のロジックを構築しています。また、「リファイニング」と呼ばれる「データを集約し安定させる」技術も組み合わせています。「リファイニング」は、細かすぎるデータを「タイプ」や「傾向」などで分類し、代表的なデータを抽出してサンプルを集約する処理です。AIに細部ではなく「全体像」を理解させることで、解釈がぶれないメリットがあります。

実際の調査データを用いた検証

2025年10月に実施された「生命保険に関する調査」(サンプルサイズ:5,305s)を対象に、「ローデータ」と「データ培養を用いたデータ」をAIに分析させた結果の比較検証が行われました。その結果、ローデータを用いた分析に比べ、データ培養とリファイニングによって処理されたデータを用いた分析は、「根拠のカバレッジ」や「セグメントの識別」などの分析出力の質が優れており、複数回の実施をした場合の出力結果も安定している結果が得られました。AIが迷わず解釈できる形にデータを整えることで、AIのアウトプットの質を劇的に向上させることができます。

まとめ

AIの進化によって、AIは作業の効率化だけではなく、データの解釈も含めたより高度な役割を担えるようになってきています。HARVEST様から紹介いただいたデータ培養の話題の中では、データの質をいかに担保するのか、ということがAIのアウトプットの質を高めるためにより重要になることが提起されました。AIに様々な業務を依頼できる環境が整いつつあるからこそ、私たちリサーチャーに求められる本質的な価値が改めて問い直されています。AIとの共創によってリサーチの未来を切り拓くために、リサーチャーが発揮できる価値をみなさんと一緒に考えていきたいと思います。今後も引き続き、リサーチャー同士の有用な情報交流・ディスカッションの場として、定期的に開催をしていきますので、次回以降もご期待ください。

2026.03.17掲載

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