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【開催レポート】JMRAアニュアル・カンファレンス2025 第3回

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「~新ビジョン策定~人を・企業を・社会をインスパイアする産業への進化」セッションダイジェスト(後編)

上杉公志
 JMRA事務局


「新産業ビジョン」を通じて、インサイト産業における業界のあり方を再定義する

「新ビジョンの背景・発表」パートを担当したのは、マーケティング・リサーチ産業ビジョン策定チームリーダーの髙木敬太氏(株式会社クロス・マーケティング)です。髙木氏は、まず「インサイト産業」について言及し、日経BP 日本経済新聞出版の『業界地図』シリーズでも用いられるなど、「インサイト産業」という呼称が、徐々に一般化していると説明しました。一方で、現在のインサイト産業のイメージが、市場調査業界を中心に、データの取り扱いや取得方法が異なる複数のグループが一括りにされている、と指摘します。

髙木氏は、このままでは「(インサイト産業がもたらす)自分たちの立場への変化は薄く、クライアントへの影響も大きく変わらない」と述べました。そこで、インサイト産業内で規模の大きいマーケティング・リサーチ産業が自らを拡張し変化させ、新しいインサイト産業としての価値を再構築する必要があり、そのために策定したのが今回の産業ビジョンであると述べました。

新ビジョンの骨子とキーワードの定義

髙木氏は、策定したビジョン「ありたい未来を創る探究主体として人を・企業を・社会をインスパイアする」を掲げ、これがマーケティング・リサーチ産業が果たすべき役割を大きく転換するものであると述べます。

ビジョンに含まれる「探究主体」とは、従来のリサーチャー像を発展させた概念です。これまでのリサーチャーは課題やテーマを受け、質の高い情報を提供することが主な役割でした。しかし今後は、課題を受けるだけでなく、自ら課題を設定し、新しい知見や価値をクライアントと共に創出していく存在でありたいと、髙木氏は強調しました。

また、ビジョンに含まれる「インスパイアする」とは、従来通り分析結果を提供し意思決定を支援するだけでなく、試行錯誤や発見、革新につながる体験を提供し、関係者の探究心を刺激することを指します。この表現には、新たな挑戦を生む存在として、マーケティング・リサーチ業界のあり方を捉え直す意図が込められていると髙木氏は語りました。

探究主体への転換によってもたらされる「三つの変化」とは

髙木氏は、マーケティング・リサーチ産業が「情報提供者」から「探究主体」へ転換する際に求められる変化を、三つの視点から説明しました。

一つ目は「問いをつくる」ことです。髙木氏は、「問い・課題を生み出すところから仕事が始まるという意識を、業界全体で共有したい」と語ります。目指す未来を発信することで、世の中・企業・生活者に新しい問いを生み出す考え方です。これまでマーケティング・リサーチ業界が蓄積してきた、あらゆる業界のクライアント課題や生活者理解の調査結果や経験を踏まえれば、「こういう未来をつくりたい」というメッセージを発信することは可能ではないか。それならば、ありたい未来像について、メディアやセミナーへの登壇やコミュニティ運営などを通じてプロアクティブに問いかけを増やす姿勢が重要なのでは、と髙木氏は強調しました。

二つ目は「場をつくる」ことです。現在のリサーチの現場は確認と検証が中心ですが、髙木氏はこれを「試行錯誤し深める場」に変えたいと述べます。そのために必要な環境や関係を定義し続けることが大切であり、パネルを通じた生活者との関わりだけでなく、より多様な接点を持つべきと指摘します。また、調査で検証した内容が実際の市場で異なる反応を示す場合もあり、テストマーケティングや統合的な深掘り、AIパネルの活用などを通じて、調査の場をリニューアルしていきたいと語りました。

三つ目は「技をつくる」ことです。現状把握や分析にとどまらず、未来の予測や創造、具体的な形づくりまでがリサーチャーの役割であると髙木氏は強調します。従来の一方通行な報告のあり方から、クライアントと共にシナリオづくりや成長シミュレーション、新しいコンセプトやプロトタイプ、顧客体験のデザインを共同で創出していくあり方へと変化していくことが求められます。

ビジョン実現のために業界がとるべき姿勢とは

マーケティング・リサーチ産業ビジョン策定チームリーダーの髙木敬太氏

このようなビジョンを実現するために、何から始めるのか。高木氏は「業界の一人ひとりがありたい未来を発信することが第一歩である」と述べます。未来を描き発信することは容易ではありませんが、「社会や生活をどう変えたいか」「クライアントの業界・商品・サービスをどう変えたいか」「マーケティング業務をどう進化させたいか」「自分たちの事業や業務をどう革新したいか」といった問いを一人ひとりが持ち、未来像を描きながら言葉にすることが、目指したい「探究主体」となるための第一歩だと強調しました。

最後に高木氏は、「今日からその第一歩を、この場に集うみなさんと共に踏み出してまいりましょう」と締めくくりました。

新産業ビジョンを踏まえたマーケティング・リサーチ綱領の改訂

その後行われたグループディスカッションの後に登壇したのは、「綱領及び規定類アップデートチーム」のリーダーである大畠弘敬氏(株式会社ビデオリサーチ)です。大畠氏は、新しい綱領の内容と背景について説明しました。

今回の綱領改訂は、新産業ビジョンを踏まえて行われたもので、マーケティング・リサーチ綱領の主要な変更点が紹介されました。そもそも、リサーチ綱領は、マーケティング・リサーチに携わる人々の自己規制の枠組みとして制定され、社会的信頼を維持するための倫理的・専門的行動指針を定めたものです。JMRA正会員社は遵守が求められ、賛助会員やクライアントにも本綱領に沿ったプロジェクト実施の協力を要請する必要があります。

今回の綱領改訂の背景として、大畠氏は三つを挙げました。第一に、新産業ビジョンに基づき、従来の調査業界以外の新規加盟者も想定し、遵守内容をわかりやすくしたこと。第二に、生成AIや画像解析など高度情報技術の導入に伴う法的・倫理的要求に対応したこと。第三に、Esomar国際綱領の改訂内容を一部反映したことです。

綱領改訂のプロセスについては、2025年1月に検討を開始し、理事会や関連委員会で議論、8月にパブリックコメントを実施。9月9日の臨時理事会で承認され、9月26日の臨時会員総会で承認後、即日施行されました。

さらに大畠氏は、今後は新綱領施行に伴う「綱領の解説編」の作成や、「定款」「入会資格に関する規定」の見直しを順次進める予定であると述べました。

新産業ビジョンを実現するための綱領改訂――四つの対応ポイント

 

では、なぜこのタイミングで綱領改訂がなされたのでしょうか。大畠氏によれば、新しい産業ビジョンを受け、綱領面からその実現を支えることが今回の改訂の主な目的であったとのこと。具体的には、主に四つの文面改訂のポイントがあるといいます。

一つ目は「インサイト産業への拡張と周辺業種の加入への対応」です。正会員社は綱領を採択・遵守する義務を負い、賛助会員は趣旨に賛同し行動する必要があることを明確化しました。さらにリサーチ定義を「個人または組織に関する情報を収集・分析・解釈し、インサイトを導出する一連の活動及び一部の構成要素」と拡張。基本原則をEsomar綱領も参照して再整理し、調査とそれ以外の活動の区別を明確化しました。また、クライアントや二次契約者に綱領遵守を要請する啓蒙・普及の重要性も示しています。

二つ目は「リサーチプロセスの分業化・内製化への対応」です。リサーチャーを「企画・設計および/または実施する個人または組織」、クライアントを「プロジェクトを委託する個人または組織」とそれぞれ定義。ただし、表現をわかりやすく整理しただけであり、基本的な意味は文面の改訂前と変わらないと説明しました。

三つ目は「AI等の高度な技術利用への対応」です。知的財産を尊重し侵害しないことを明確化し、生成AI利用に関する例を盛り込みました。高度な技術を利用する時の条件として、(1)リサーチ結果への影響や必要技術情報をクライアントに説明し、法令遵守と公平性を担保、(2)データ収集で対象者がAIと直接やり取りする場合は通知、(3)データの捏造・改ざん・盗用の禁止、という三点を新たに設けました。

四つ目は「関連法令との整合への対応」です。受動的データ収集の事前同意取得ルールを明確化し、総務省・経産省の「カメラ画像の利活用ガイドブック」を参考としつつ、対象者同意が得られない場合の代替手段を定めました。さらにAI利用による個人特定の可能性を想定し、リサーチャーへの注意喚起として具体例を追記しています。

新綱領は、私たちの行動が伴ってこそ意味を持つ
大畠弘敬氏
(綱領及び規定類アップデートチームリーダーの大畠弘敬氏)

大畠氏は、新しい産業ビジョンと綱領は、私たちにとって羅針盤のような存在であり、いかに整備されても、私たち自身の行動が伴ってこそ意味をもつといいます。また、マーケティング・リサーチの仕事は、社会の健全な発展に欠かせない唯一無二の価値を提供するものであると強調しました。

最後に大畠氏は、「私たちの知恵と力を産業ビジョンと綱領に重ね、共に新しい時代を創っていくためにも、明るい未来に向かって共に進んでいきましょう」と会場に呼びかけました。

 

2025.12.16掲載

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