第4部 インサイトのインパクトを最適化する
第36章 営利的インパクトを最適化する
JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子
営利的(Commerciality)とはどういうことだろうか? 会計士試験に合格することだろうか?それとも中古車販売の能力だろうか? 営業チームを率いた経験があることだろうか? もしテレビ番組『アプレンティス』*の役員室にいたら、解雇されるどころか採用されるだろうという揺るぎない自信を持つことだろうか?(*欧米で大人気のリアリティーショー番組)
ロンドンで開催されたIMAの第55回インサイト・フォーラムでは、e-Bay、ネスレ、プレミアフーズ、テスコを含む40の主要企業のインサイトリーダーとこのテーマについて議論した。出席したインサイトリーダーの多くは企業織から「もっと営利的になれ」というプレッシャーを感じたことがあり、その方向に進歩していると感じている人もいた。しかし、全体的に感じたのは、この分野はインサイト・チームにとって簡単なことではなく、もっと上達すべきだと感じているテーマだということだ。あるいは、むしろ無視したい分野かもしれない......もっと顧客を理解することに集中し、営利的なことは営業部に任せてもらえないだろうかと。
ひとつ確かなことは、IMAがインサイトリーダーに開拓を勧めている分野の中で、この分野が最もやるべきことが多いということだ。これは単なる直感ではなく、ベンチマーク調査を実施したところ、インサイトの営利性においてインサイト・チームは12点満点中平均4.9点しか獲得できず、IMAのインサイト・ベンチマークで評価された8つの領域の中で最も弱い領域となっている。
私は、インサイト・チームの営利性について考え方の枠組みを変化させる時だと考えている。中古車のセールスマンのイメージは忘れて、野菜を売る屋台に立っている二人の単純な交流について考えてみよう。あらゆる商取引には3つの要素が含まれる:
私たちインサイト・チームの多くは本社に勤務しているため、顧客とのやりとりを自分の目で見ることがなく、その本質的なシンプルさを見失いかねない。こうして私たちは重要なインサイトを見失う。私たちの組織は、屋台の例の市場の3つの要素すべてについて優れたインサイトを持たない限り、真の営利的な理解を得ることはできないのだ:
- 顧客が誰なのか、何を必要としているのか、なぜ今日この店を選んだのか、どのように買うものを選ぶのかを知る必要がある。
- 自分自身、この例でいう市場の販売者は、どのように諸経費を管理し、商品を調達しているのか、野菜を生産し、販売するためのコストはいくらなのかを知る必要がある。
- 取引を理解し、商品の販売量、支払価格、マージンを把握する必要がある。
このような理解は、顧客データ、営業データ、財務データの点と点を結ぶことからしか生まれない。
これがどのようにインサイト・チームに影響を与えるのか?
インサイト・チームで仕事をしていると、ビジネスの営利的側面は他人事だと考えたくなることがよくある。私たちは、営業と顧客を切り離した世界観を構築している。
つまり、リサーチャーやアナリストが営利的であるという考え方は、他人の制服を着ることや違う考え方を受け入れることに似ていると感じるのだ。
その考えを拒否する合理的な理由を考えるだけでなく、感情的な反応を感じる人もいるだろうし、もしかしたら他の部署の動機や価値観を受け入れなければならないという案に尻込みする人もいるかもしれない。
しかし、顧客、自社の業務、顧客とサプライヤー間の金銭的な取引を理解することなしには、持続可能な営利的成功を達成することはおろか、組織が営利的だとみなすこともできない。したがって、インサイト・チームが開発した学びは、財務部門が保管するスプレッドシートや、製品、調達、マーケティング、営業チームが開発する業務プロセスと同様に、営利性の概念全体にとって不可欠なものなのだ。
営利的成功=顧客+オペレーション+財務
インサイトは、この方程式における顧客の部分を提供するため、営利的成功にとって極めて重要である。というのも、インサイトの担当者は、複数のソースからのデータやアイデアを統合し、それらを組み合わせて行動モデルを形成することに生来長けているからだ。営利モデルに必要な財務データや業務データを検討するのは、他部門がどの主要顧客や市場のインサイトを統合する必要があるかを理解するよりも、私たちにとって容易なことが多い。
したがって、もしあなたが企業のインサイトリーダーで、チームの影響力を最適化したいと考えているのであれば、問うべき質問は、
- インサイト・チームはもっと営利的になるべきか?
- どうすれば同僚を説得できるだろうか?
ではない。むしろ、
- インサイトは、どのように組織の営利的な理解を深めることができるだろうか?
- インサイト・チームは、どのような ツールや行動を作ることで会社をサポートできるだろうか?
である。
このコンセプトは、株主のために利益を上げることを究極の目的とする営利企業においてのみあてはまるのだろうか? もし公共機関や非営利組織で働く場合、財務データや業務データについて考えなくてすむのだろうか?
どちらの質問に対する答えも「ノー」である。どのような組織でも、収入と支出を計算するためにある程度の財務会計が必要であり、その実態や組織の内部構造を理解することは、慈善団体や政府機関のインサイト・チームにとっても営利企業と同様に重要である。インサイトの仕事は、長期的かつ持続可能な成功を目指すために活用されなければならないが、インサイト・チームが顧客の問題だけに焦点を当て、事業や財務との関連性を無視していては、それを効果的に行うことはできない。
成功するインサイト・チームの36番目の秘訣は、自分たちが組織の持続的な財務的成功に不可欠で
あると認識することである
重要ポイント:
- インサイト・チームは、顧客に集中して、営利的なことは他のチームに任せればいいという考えを捨てなければならない。
- 成功する企業はどこでも、顧客、社内業務、顧客にサービスを提供するための財務状況を理解している。
- 先進的なインサイト・チームは、顧客データ、財務データ、業務データの点と点を結ぶのに適したポジションにいる。
- 非営利企業や公共機関は、言葉は異なっても、収支を理解することが重要であることに変わりはない。
- 「インサイト・チームは、組織が持続可能な財務的成功を収めるために、どのように支援できるか」が重要な問いである。